PreCure §11 その場所 〜記憶に残る背景〜
輝ける早春の時代を生きる少女達。 物語中の重要な場面に彼女等の背景として用いられるひとつにベローネ学院女子中等部の靴脱ぎ場があります。
特に第8話のは、ほのかがなぎさにミップルコミューンを渡してしまう決別シーンであり、玄関方向からの夕陽に染まり、見事な陰影、絶妙なセリフとその
“間” で、最も強烈な印象としてその場所が記憶に残ります。
第33話では、試合のミスを引き摺る志穂に焦れったくてきつく当たってしまう莉奈、及びラクロス部をもう辞めると自暴自棄に云ってしまう志穂が描かれ、場所は同じくこの靴脱ぎ場です。 また第43話では、藤P先輩に憧れるクラスメイトの森岡唯を応援してしまうなぎさをほのかが心配し、気持ちを誤魔化すな、素直になれというほのかに対しどうにもならない苦悩のなぎさが走り去るシーンがここで描かれます。
ひとつに、学校に於ける靴脱ぎ場は集合と分岐のステーションスポットであるという事でしょう。 生徒は毎朝ランダムに登校しては必ずそこを通過し、夕方の帰りも改札口のようにそこを通って帰路に就くのです。
登校及び下校時に様々な生徒と顔を合わせる機会が多いでしょうし、それだけに朝夕の挨拶や会話がなされて自然な場所です。
またここは 『靴を脱いで上履きと履き替える』 というパーテーションのような効果もあります。 学校には正門もあれば校舎玄関もありますが、そこまで土足で来てそこから先は履き替えなければ立ち入れないという境界です。 即ち、生徒達にとってここが真の正門であり玄関なのです。
それは重要な意味を持ちます。 下校で帰途に就く場合、そこから外に出れば彼女達は一般社会に生きる一少女であり、学園という極めて特殊な閉鎖区域にいる一生徒とは異なります。 言い換えれば、彼女達が朝に登校してそこで上履きに履き替えるという行為は、学園に入り、今から特殊な世界で学ぶために一歩踏み入れる儀式のようなもので、意識せずとも周囲に向ける感覚などは少し異なっているかもしれません。 これは大人達が職場に足を踏み入れる際も全く同じ事が云えるでしょう。
彼女達には少なからず転機のスポットであり、それだけにややもすれば感情不安定になり易いでしょうし、案外ドラマ性ポテンシャルも高くに秘められている場所ではないでしょうか。
最も多く描かれて様々なエピソードの展開を見るのが川の土手、つまり河川堤防及び河川の内側です。 流れている川の瀬、草むら、遊歩道、堤防もその上の道路も河川の敷地も、これらは全て
『河川敷』 と称されます。 多くの生徒達はここを通学路として利用しているらしく、なぎさもほのかも例外ではありません。 それ故に様々なエピソードの舞台となっています。
友達でも何でもないと云い放ったこの場所はまた初めて 「なぎさ」、「ほのか」 と呼び合った場所でもあり、キリヤの真実が語られ、暁の決戦場となったのも河川敷です。
その他、多くのバトルフィールドとして用いられ、第43話では藤Pの貸してくれたマフラーに涙するなぎさの姿もあります。 ジュナの種が発芽したのもここですし、MaxHeartで最初に九条ひかりが姿を見せるのも川の縁です。
ビルも家も木々も無い開けた空間には違い無く、時として人はみなこのような場所に身を置きたくなるもので、開けた視野を得ることによって落ち着き、安らぎも与えられましょう。
殊に茜色に染まる夕陽を描く場合、この作品に限らず多くのアニメや実写ドラマで河川敷というスポットは海岸線と共に多く用いられます。
実際に夕焼けの美しい暮れ時など、そこを散歩するだけでも気持ちのいいものですし、トランペットの練習をなさっている人も見掛けます。 そう考えれば、単に河の敷地だというだけでなく、遊歩道も芝生もあるのですから公園などと同様にコミュニティの広場でもあるのです。
上述の如く、学園から出て来れば彼女達は社会の中の一少女です。 現実の多くの生徒達もそうであるように、学園内では話せない事もこのように開けた空間で風に吹かれ遠くを眺めながらであれば口に出す事も可能でしょう。 それは学舎の生徒ではない思春期の少女としての言葉である筈です。 言わば、ここは彼女達をより素直にしてくれる場所であるのです。
バトルフィールドになるというのは、実際の喧嘩騒ぎでも昔から河川敷は定番と云える程にお馴染みの場所で、障害物もなく広いため心置きなく暴れられるためです。
『ふたりはプリキュア』 も然り、少年マンガのような肉弾相打つ徒手格闘戦には打って付けの闘技場と云えましょう。
雪城家に於けるほのかの部屋の縁側も想い出に残る場所です。 二人はよくここに腰掛けますし、さなえお婆ちゃまもここからの登場が主となります。 愛犬忠太郎がほのか部屋に顔を出す場所でもあり、夜には勉強の合間にほのかが一人で星を見上げる憩いの場となり、第22話ではここで一晩泣き明かします。
第8話ではほのかとお婆ちゃまの実に意味深なワンシーンもあって、何かと印象深い場所です。
縁側というのは日本の住宅文化に於いて素晴らしい構造のひとつでしよう。 普段は開け放ち、風を入れ、台風の際には雨戸を閉めますので廊下としての機能を損なう事はありません。
親しい人は玄関から入らず、いきなりここを訪ねる場合もあります。 そのままちょいと腰掛けることが出来、出された茶を啜りながら庭の樹を堪能することも可能です。
互いにわきまえを重んじる島国日本独特な文化の一片でありましょう。
二人がここに並んで座っている情景だけで通い合う日常が想像され、使命を終えた小さな客人達が眠りに就く最後の別れとなる涙のラストシーン舞台である事も、なるほどと頷けるところであります。
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