PreCure §5 躍動 〜闘いの少女達〜
新番組が始まるその朝にTVでOP冒頭を観た途端、これはお嬢様と流行りのメイドさんがモチーフでもあるのか? と感じたものであります。 可愛らしい二人の女の子ながら白と黒ではパトカーの警察イメージ? 『逮捕しちゃうぞ』 の幼女版ではあるまいし、かといって葬式の白黒幕を思い浮かべたのでは 『 CURE 』 どころではない、などと目まぐるしく脳味噌を刺激されつつタイトルがドカンと映される 「プリッキュア〜!」 の決めポーズに魅せられてしまうのでありました。
それは、ちょっと悪戯っぽい小僧と少し鼻を上向けたおしゃまな少女の取り合わせにも見え、特にブラックの 「どんなもんだィ!」 とばかりなガッツポーズがとても良く、今でもこの決めショットは脳裏に残るひとつであります。
白と黒では華やかさが無いと思われても無理はありません。 戦隊モノを始め、特に女児アニメでは彩り第一とされてきました。
既存のヒロインイメージにとらわれないというのが作品コンセプトでしょう。 先に黒が生まれてその対極に白を配置したようですが、少年マンガのようなこの取り合わせはそういう基本土壌によるものと思えます。
バトルを御覧になって感じられると思われますが、黒の回転蹴りは時にドスンとくる重量感を与え、白の舞いは本当に輝ける純白に見える事があります。
これが異なる黄色やピンクであったらばと考えるに、思わず首を振ってはこれが最良、白黒でなければと確信するのであります。
一目見て、プリキュアのシルエットには安定感があります。 比較のため当HPでもお馴染みな火野レイ、マーズさんにちょっと御出演願いましょう。
スラリと伸びた先細りのセクシーな美脚に慎ましやかなる紅いハイヒールであります。 一方、プリキュアはドナルドのような大きなシューズにゆとりあるだぼだぼスパッツがそのままロングに膝下まで覆っています。
股下から脚だけの図心を求めればマーズの脚図心は殆ど膝の高さ、ブラックのそれは足首近く低い位置になります。 マーズのような大人びた色気にはほど遠いながらも、立ち姿だけでプリキュアは安定感を持って映ります。
なるほどHGフィギュアがコケにくいから良いではないかというのはついでの産物で、実はこれで派手なアクションを起こした際に観る側の目に大変な影響差が生じます。
単純に申し上げればキュアブラックの脚は先が重いハンマーのようなもので、セーラーマーズのそれはハンマーの激鉄を外した木製の柄だけに等しいのです。
双方を共に上空向けてクルクル回転させて投げ上げれば一目瞭然。 棒っきれに比べてハンマーの方がはるかに迫力を伴って我々の視線を惹き付けます。 跳んで回って、蹴って弾き飛ばされ、また踏ん張ってという素早い連続の動きにこの視覚差はかなり有効なのであります。
デュアル・オーロラ・ウェイヴ・・・・・。 この天に手を翳しては変身の第一声を発する大口開きがおよそ美少女ヒロインらしくなく、この辺りから既に少年アニメの趣を持っています。
変身後の彼女達は戦闘モードの凛々しい面立ちとなり、日常では見られない精悍さがあります。 変身前後のこのギャップは、普通の少女達も万一このような局面に立たされた場合、彼女等のように立ち向かって闘わねばならないのだという仮想の実現化にも見え、凡庸な少女観察を真っ向から否定して、愛らしい少女達も本来かような闘争心は持ち得ているのだと鈍感な大人達の鼻先に寸止め拳を突き付けるかのようにも思えます。
この作品は 『ふたり』 と並んで 『バトルアクション』 が特徴であり、既存の女児向け作品では例を見ない活劇が展開されます。 大袈裟な表現をするならば、それまでタブーとされてきた美少女による肉弾戦の徒手空拳格闘。
殴って蹴って、殴られ蹴られ、弾き飛ばされては大地にバウンドするまで叩き付けられます。 魔法の呪文、エネルギー波だけでドカンのようなものは殆どお定まりの最終ひとコマであり、バトル大半は武器を持たない格闘技そのものです。
思念のパワーに頼る訳でもなく万能の杖も無い。 驚異的に増幅強化された自分達の肉体だけで敵を追い詰め弱らせます。 そこに見られるものは等身大少女達の凄まじいばかりな躍動と徒手空拳の世界であり、実際にパンチを浴びせられ、まともに蹴りを受けてはすっ飛びます。
肉体の酷使そのものな格闘は痛々しくもあり、また痛快で、それ故、より親近感をもって等身大の彼女達が迫って参ります。
敗戦色濃く、コスチュームも汚れ、擦り傷だらけな彼女達は息も絶え絶えながら手を取り合っては瓦礫の中から立ち上がり、効かぬと判っていてもマーブルスクリューを放ちます。
このような情景を見た私の知人が 「この子達にはヤラれの美学がある!」 と声を上げたことがあります。
彼は大変な女子プロレスファンであることが後に判明し、なるほどプロレスの敗者はそのような渋味ある称賛を授かることもあるのかと暫し感じ入り、思えばあれだけONに牙を剥き、力投を重ねても江夏に栄冠は無かったな、などとあらぬ方向で涙ぐむ始末。 どうあれ、プリキュアを彼がそう評したのも、身近な近所の女の子達が闘っているかの如く感じたのであろうと信じて疑わぬところであります。
数ある戦闘場面中、珍しいことに第31話の工事現場バトルではブラックが映画 「ヒーロー」 のジェット・リー (リー・リン・チェイ) の棒術よろしく鉄筋棒を振り回して応戦します。
なぎさの部屋にポスターが貼ってあるところから彼女はこの手のアクションスターがお気に入りのようで、またラクロス球技のスティックコントロール自体が棒術のようなものです。
弓矢ならぬ鉄筋の一斉攻撃雨あられに対し、咄嗟に掴んだのは SD30-D25 内外と見える鉄筋棒。 リー・リン・チェイか孫悟空かというアクションを披露します。
これは彼女の部屋にあるポスターと彼女の趣向、及びラクロス球技を関連付けるもので、この場面のように何らかの武器を手にすることは極めて希なのです。
巨大な敵に向かって二人が走ります。 日常ではお嬢様走りなほのかもキュアホワイトと化したからには戦闘マシーンのように駆け回ります。 二人が跳んで宙を舞っては空中殺法。 時には敵の躯体をリスのように駆け上がり軽装甲とおぼしき頭部付近に打撃を与えます。 第2話の落下するエレベーターに二人で制動を加えるシーンなどは未来少年コナンがやりそうな救出劇でもあり、第15話では刃渡り10m以上もあろうかと思われる大太刀の上をブラックが疾風の如く駆け渡っては、振り下ろされたその刃をホワイトが拝みの真剣白羽取りで受け止めようとします。
概ね、パワーを誇るブラックはキックとパンチを主体とし、ホワイトは投げ技を得意としているようです。 第11話では怒りのブラックがゲキドラーゴの鮫牙を一撃でへし折り、ホワイトはそのウツボ手を捻り込んで大化け物をぶん投げます。
また、ホワイトはスカートである分、ブラックに比べて動きの派手さはやや抑え気味になっており、縦回転を伴うブラックに対しホワイトは横の捻り方向スピンが多めに描かれます。
第26話の強大なイルクーボとの決戦に於いて、地面に叩き付けられたブラック目掛けてホワイトがぶん投げられます。 このままでは大激突と思いきや、なんと彼女は捻りによって野球で云うところのスライダー回転を自らの身体に施し、その激しいスピン効果をもって投げ付けられた軸方向にカーブを与えて相棒との激突を避けるのです。
これには仰天であります。
シリーズディレクターに西尾大介が登用されたことからも、『エアマスター』 並の格闘技を求めたものと想像でき、蹴り、突き、足払いにかかと落とし、更には連携技も含め、なかなか多彩な手数を駆使します。
攻撃を躱す宙の舞い、華麗なる空中殺法はさながら体操の高難度か、いやさ、それをはるかに凌駕するサーカス技であり、エアマスターの相川摩季だけでなくレイラ・ハミルトンも苗木野そらもこのバトルを見れば激しく闘志を燃やすものと思われます。
幾度も見慣れたOPでのアクションはこれらの象徴であります。 跳んで大股広げてはコマのようにクルクル回り、蝉のように鉄骨に張り付くのです。 キリリと締まった表情は少年ヒーローそのものであり、これは今迄のヒロインとは少し違うぞというインパクトがあります。
例えは良くありませんが、猫じゃらしに仔猫が飛び付くように小さな子供は動くもの、躍動するものを好みます。 どんなにお躾の宜しいお嬢ちゃまであろうとも、一度この二人のバトルを目にすれば病み付きになるでしょう。
黒いのと白いのがタタタタ・・・と走っては空中でアクロバット回転し、ドカドカッとキックを入れる。 黒は力強く白は華麗というイメージを定常として残しつつも、溢れる躍動感は動画ならではの味わい、手に汗握る昂揚を存分に与えます。
「そんな野蛮なアニメの真似をするんじゃありません!」 などとお叱りになるお母様がいらっしゃったのかどうなのか、身体を動かしたい盛りの子供達にプリキュアごっこをするなと規制するのは抑圧に近く、健康上宜しくありません。
ここを叩いてはいけない、こういうのは痛過ぎるなどとルールを決めてあげれば良いのです。 野生の獣が戯れ合いの中から噛み付き具合や爪立て具合を知るように、人間は遊びの中からルール厳守を学ぶものです。
また、プリキュアアクションを見て武道を習いたいと思うかもしれませんし、体操選手や曲技団に憧れる子供も少なからずいたのではないでしょうか。


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