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講談社 デジなか


   PreCure §8  洋館の住人     ~哀しき闇戦士達~



 ジャアクキングによる断末魔の種飛ばしは自身を再生させるプログラムを虹の園に残したものであります。 敗北によりその身は闇深く封印されようとも、我が意志に忠実なDNAを三カ所に蒔き、それがやがて自分を復活させる企てです。 谷底へ突き落とされる刹那に命綱アンカーを三カ所に放って打ち込んでおいたようなものであります。
 飛ばした三つのものが大地から生えるところを見れば植物のそれに近い 『種』 と思われ、虹の園の栄養素を取り込んで魔界樹の如くに不気味な発芽、数秒後には成長して人間の形に化けます。

 三カ所の発芽から生まれた闇の怪人達。 後期の敵役はジュナ、レギーネ、ベルゼイという一時期流行った男女のドリカムスタイルで構成されます。 発芽後に人の形を成したとはいえ闇の再生特殊部隊として完全な闇戦士に出来上がっている訳でなく、仕上げの覚醒には非常に大きなエネルギーを必要としたようです。 ジュナは台風により、レギーネは火山の噴火をもって、そしてベルゼイは病院で雷エネルギーを受けて覚醒します。



 前期の適役5人衆・ダークファイブと異なり、この三名はジャアクキングの分身、同一種であるせいか協調性を備え、リーダーであるベルゼイを中心として互いに親近感を漂わせた家族のような雰囲気を持ちます。 また、歌舞伎獅子の兄貴や北欧風怪力大男などと異なり人間の姿を保っては人間と変わりない生活を営みます。 虹の園に化け込むのは前期のキリヤと同様ながら、彼等はこの世界に 『森の中の洋館』 という住み処を構えて活動拠点とし、そこに於ける彼等の姿も毎回のように描かれます。

 元々がジャアクキングである故に彼等の潜在的な記憶には前期で死闘を演じた宿敵プリキュアが残されています。 なぎさとほのかを見るなり 「お前達がそうなのか・・・!」 と前期イルクーボのセリフよろしく忌まわしき白黒がフラッシュバックするのであります。 またレギーネには未だ覚醒前にも関わらず彼女を護るべく用心棒ザケンナーが多数付き添っており、これらを見れば生まれながらにその役割をプログラミングされている働き蜂集団のようで、ジャアクキング恐るべしといったところでしょうか。

 覚醒した彼等は早速拠点を構え、ジャアクキング様の復活スタンバイ状態となります。 しかし彼等はその前に手土産としてまずプリズムストーンを奪うのです。 これで全員揃った、では行こうかと早くも団体行動、新学期早々のベローネに乗り込んでの見事なチームプレー。 実に鮮やかな手際でウィズダムと石を奪取しては、プリキュアのマーブルスクリューを打破します。

 彼等がプリキュアから重要なものを奪う際にはこの “新学期初日” という日を狙います。 石とウィズダムを奪ったのは夏休み明けの二学期初日、石の力をポルンから引き出して奪い去ったのが冬休み明けの三学期初日であります。 こういう日ならばプリキュアも休みボケしているに違い無い、特にあの黒い方などはどうせ宿題など済ませている訳無いのだ、呆けたアタマと寝ぼけマナコでは我々の敵ではない・・・などとの冗談はさておき、これはシリーズ構成上の基本的な大割り節目でありましょう。 この学期を舞台にどこまで演る、冬休みのエピソードはこんな感じ、よって新学期はこの展開から始めやしょう、といった風な大割りです。 ですが、TVの年間モノ女児アニメで1年分の工程を最初に固めてしまう詰めまではそうそう行わないと思われ、偶然にもこれらのイベントが新学期初日になってしまったというのが正直なところではないでしょうか。

 白黒の稲妻パワーを分離拡散させてしまうという手法により、あっさりとマーブルスクリューを消滅させる余裕綽々な彼等は、これは強そうだと子供達に印象付けるに充分なバトルスタイルを持っており、これ以後もプリキュアのバトルではザケンナーだけではない彼等との直接徒手格闘も数多く描かれていきます。

 第27話から第29話までは後期のプロローグ、敵役トリオの登場と集結であり、石とウィズダムが攫われる第30話から物語が動きます。 拉致される寸前、ウィズダムはせめて石のパワーだけでも切り離して誰かに預け隠そうと決断します。 それは光の意志を持つ者でなければならず、メポミポか或いはプリキュアの・・・出来れば白い方・・・などとなぎさが聞けば大層怒りそうな選択肢が過ぎるものの、結局傍らに居たポルンにその力を預けて連れ去られます。
 このポルン、予知能力、長老との通話能力、そして光パワー伝授能力、更には 『全てを生み出す力』 の発動と、光の園の小さな王子様は数多くの力を携えた後期のキーパーソンであります。 ちょこまか動くこの生き物の秘密、石の力はどこにあるのか、そして自分達に迫る体内からの蝕みなど、ベルゼイ達三人の闇戦士にとって謎が複数絡んで物語は進行します。


 彼等の拠点・洋館の情景を描く場面のBGM、テーマは魔物が巣くう不気味さというよりどこかエキゾチックに聞こえます。 人間の姿でそこに居る怪人達に親しみさえ感じさせるもので、滑らかにスラーの効いたウェイヴのようなその旋律は耳に残ります。
 鬱蒼と生い茂った森の中に日本の風土とはアンバランスな西洋館。 然るにその周囲の森林も彼等の手により建物の外観に相応しい北欧或いはカナダ辺りの針葉樹林とおぼしき樹木が配置されたものです。 お館にはかなりの部屋数がありそうで、魔物達の牙城ではあるもののホテルのようにも見えます。 第36話では捕獲していたウィズダムがこの洋館から脱走し、結果プリキュアにこの場所を知られてしまったため、ベルゼイは森林ごと洋館を別の場所に移動させてしまいます。 なんと便利な能力でありましょう。 こんな能力を手に入れて四季折々次々と移動して回れる別荘を持ってみたいと夢見るお父さん方もいらしたのではないでしょうか。


 最初に発芽、覚醒したジュナはその仮の人間風貌では二十代後半の働き盛り青年に見えます。 人間で云えば社会人のほぼ十年選手。 「この物件は自分にやらせろ」 などとしゃしゃり出る頃です。 しかし彼もレギーネもリーダー・ベルゼイに激しく反発、口論する場面はありません。 覚醒後の意識が確たるものになった時点からベルゼイ追従の連帯行動が働くDNAであろうかと思えます。
 覚醒までは角澤竜一郎という名のサラリーマンに身を窶しており、同僚の女性社員からも 「角澤君」 などと呼ばれていたようです。 ニヒルな面立ち故に裏世界の殺し屋を思わせる “アブナイ匂い、危険な魅力” で虹の園の若き女性を誑かすことも出来そうですが、そんな下衆な行為は致しません。 『全てを食い尽くす力』 によって自分の身体が蝕まれゆく事実にやがて怯えつつ、ベルゼイの野心に付き従って生き残りを懸ける、哀愁漂う闇戦士です。

 レギーネの魅力は何と云ってもボソボソ喋りからいきなりヒステリックに叫び上げる暴発の如き喚き上げでしょう。










 二十歳前くらいではないかと思われるそのおどおどした伏し目な無口女性は何を考えているのやらさっぱり見当も付かず、他の二人に自分の意見を申し述べるにも極端な小声で、聞く方は耳を欹てて復唱を要求しては聞き直さねばなりません。 そこでいきなり爆弾破裂の如く叫ばれたのではたまったものではないのです。










 このレギーネと男二人による爆笑コントは出陣前の洋館ダイニングルームにてほぼ定常化し、途中から参加する凸凹執事ザケンナー達と同様に張り詰めた緊張感を解す緩和剤となります。

 人間・小山翔子としてのレギーネはうら若き女性ながらなんとも情け無い表情を常に保っており、そこに笑いのポテンシャルが秘められています。 御高倶女子のラクロスチームに化け込んで相手エースであるなぎさのファンを騙ってはそそのかす策略も見せ、不安げに、またぎこちなくなぎさに近付く様がとても可笑しい。 またベローネ体育祭当日など何を思ってか音楽室に入り込んではあの顔でピアノを弾いているのです。 なぎさとほのかの前に現れる姿はいつも見るからに頼りなく、「あなたは何に怯えているのかね?」 と問うてみたくなります。 それがいきなり目玉無しの吊り目化け物に変化するため、変身前後の静躁にはかなりのインパクトがあります。
 角澤竜一郎として人間の社会生活に入り込んでいたジュナとはやや異なり、本編でレギーネが 『小山翔子』 なる人間名を用いるのはニセ御高倶ラクロス部員以外にありません。 当初何らかの形で人間社会に於ける生活模様を描く予定であったのが削除されたのかもしれません。

 ベルゼイ・ガートルードもまた結城玄武という厳めしいような人間名を与えられていたようですが、この名を使うことはありません。 背丈の小さい中年オジサン、ロマンスグレーのオールバックも様になっている小柄なナイスミドルです。 若葉台総合病院の院長に成りすましては覚醒の機会を待っていたもので、落雷のエネルギーにより頭が爆発したような凄まじいヘアスタイルの闇戦士に覚醒します。
 戦闘モードとなったレギーネのヘアは六つの巨大カールで柔らかいピンクのウールを思わせるのに比べ、ベルゼイのそれはいかにも硬いシルバー剛毛のようで、鎌で刈り取らせて貰えれば庭掃きの箒が作れそうでもあります。
 最年長の彼は三人の中では戦略の中枢を担い、虹の園についても詳しいと見え、他の若い二人を引率する能力も高そうです。 プリキュアとの戦闘結果から様々な推測を巡らせ、洋館のダイニングルームに於いて知略を駆使します。 ポルンの秘密、そして自分達に迫る運命と未来への展望、野望など、これらは全てこのベルゼイの分析と決断により方向付けされていきます。


 ベルゼイとジュナは第一印象から人間の社会人、それもホワイトカラーなサラリーマンに見えます。 顔つきだけ見れば暴力団かヤミ金融業者そのものですが、作戦上変装を余儀なくされる以外は常にスーツ姿を崩さず、この二人がテーブルに着いて今後の策略などを練っていればどこかの企業の会議風景に見えないこともありません。 野心に長けたやり手上司と忠実なデキる部下のようです。 そこに若い遊び人風の素っ惚けた女性・レギーネを置くことによって仕事場イメージを退け、この珍妙な取り合わせがむしろアットホームな雰囲気を醸しています。
 後のMaxHeartに登場する洋館クァルテットでは、最後にジャアクキングと化すバルデスを除く三名が実質オーメン少年の取り巻きであります。 このベルゼイ一派と似ているようではありますが、三名の構成や各キャラのユニークさで見劣りは否めません。 これはベルゼイ達が 『人間容姿』 で 『人間界の生活』 を営んでいるという設定が大きく影響しているものと思えます。

 大テーブルにいくつもの金燭台が置かれ、10人分以上もの席が配置されたダイニングに彼等だけが座ります。 プリキュアの敵役が用いる作戦会議室が洋館のダイニングルームであるとするのは後のMaxHeartまで受け継がれます。 また女子中学生達に絶大なる人気を得たと想像される凸凹の執事ザケンナー達もそのまま次年度も名脇役を続けることになります。 これらはプリキュア路線にマッチした好ましい設定になり得たという判断でありましょうか。
 人間世界に化け込んでいる以上はそれらしい生活様式を取り入れていると見え、食事もこの大テーブルで摂り、食べている物も人間そのものです。 就寝時に着替えるらしく、ベルゼイのパジャマ姿も見ることが出来ます。 また第37話ではベルゼイが歯磨きしており、レギーネがそそくさと後に続くのが笑いを誘います。

 大きな洋館の中で彼等三人が集うのはこのダイニングルームだけで、他の部屋で彼等が話し合う姿は描かれません。 また彼等が単独で自室に居る姿も見られず、ベルゼイの寝姿やシャワーを浴びるレギーネの姿などはありません。
 つまり彼等の拠城・古めかしい洋館イコールこのダイニングルームなのだということであります。 洋館といえば燭台と長い大テーブル、暖炉と壁に掛かった肖像画。 ここは彼等にとって広間の兼用でもありリビングでもあります。 この一室にそれら全てが凝縮されており、洋館の外観とこの部屋を映すだけで彼等の棲み処、生活様式が表されます。


 燕尾服に身を包んだ執事ザケンナーが二名登場するのは第36話からで、彼等はベルゼイ達の身の回りの世話から洋館内雑用一切を仰せつかっています。 掃除も食事の支度も人間並の生活を営むには日々あまりにも面倒な作業が多く、ベルゼイ達はそのようなことにかまけていられないのでしょう。 丁度ウィズダムを捕らえた事でもあり、四六時中見張らねばならない煩わしさから自分達を解放しようと小間使いを置く発想であったかもしれません。

 彼等はベルゼイが生み出したザケンナーというよりは闇の世界から登用されたものでしょう。 ヒマなお前達に働き場を与えてやるから一緒に来いと命ぜられたように思えます。 もう少しマシな奴等だと思ったが、とベルゼイは頭を掻いたでありましょう。 着任早々お間抜けなことにウィズダムの策に掛かっては脱走を許してしまいます。

 ボケ役のノッポさんにおチビさんが突っ込むコントは、のほほんと何もしない大きい方に対してあくせくとただ慌ただしげに苛つく小さい方、という対極姿勢から生まれます。 凸凹な姿はC-3POとR2-D2のようでもあり、ストーンパワー発動の大変動におののき抱き合う様はその原型である太平と又七に瓜二つであります。
 失態をジャアクキング様に報告される事を恐れ、日々気を遣ってベルゼイの肩揉みまでする姿などは人間臭く、それ故に可笑しく、ザケンナーであるからには当人達に欲や楽しみなど無く先の希望すら持ち合わせてはいまいと思われ、ただ雑用に使われるだけの非戦闘要員な彼等はまた哀しくも映ります。




 彼等が飼っている鳥籠のインコ、人の口真似をする鳥というのは不思議で不気味でもあり、月明かりと燭台だけに照明を頼るこの暗い洋館の雰囲気を盛り上げます。
 捕らえたウィズダムをその中に閉じ込めておくのは妙案でしょう。 後にベルゼイ自ら語っているように、常に目が届き、悉に観察分析し易い絶好の檻です。 自分達の作戦会議は筒抜けになるものの、その中でちらちらとウィズダムの反応も窺え、したたかなベルゼイはウィズダムが各方面に散りばめて隠した 『石の力を呼び出す呪文』 さえもパズルを解く如く手に入れてしまうのです。


 初お目見えよりベルゼイ・ガートルードの風貌は野心的で、単純でない肚を持っていそうに思えます。 またこの三人の構成でも彼だけが離れて年長者、他の二人の父親年代にも見えます。 ジャアクキングから特殊工作を請け負っている家内工業一家のようであり、同じ屋根の下に棲んでいることからしてもベルゼイは家長と親方を兼任する立場に似ています。 さしずめジュナが後継ぎの長男で、レギーネがちょいと風変わりな妹娘であります。 余談ながら、かような組織は不況にも強く、家族の愛で結束があるため少々の辛抱も厭いません。 プロフェッショナルな職人一家に似た面を保っているのは、同じジャアクキングから生み出された確かな血族であることに加え、ベルゼイのリーダーシップとそれに付き従う若い二人の姿勢が表されているからでしょう。

 知識に長けるベルゼイは勘付いていましたが、『全てを食い潰す力』 が体内から彼等を蝕んでいるという事実は大変な衝撃です。 体内で着実に成長し続ける極めて小さなブラックホールを宿しているようなもの、とでも想像致しましょうか。 第41話で石の力がポルンに託されている秘密を知ると共に、自分達の身体に変化ある危険も確信してしまうのです。 かねてよりその迫る影を知っていたベルゼイは第42話で 「未来は自分達の自由のため」 という意志を他の二人にも同調させ、彼等は石の力を三人の未来に捧げることを決意します。 それは紛れもなくジャアクキングへの背信、謀反の選択であります。

  

 謀反には周到な下準備が必要ではあるものの、彼等の場合は暴力団が上納金を差し出さず懐に入れてしまう行為と大差ありません。 それによって自分達が頂点に君臨する未来が開け、何よりも自由が手に入る。 しかも肝心のアイテムは我が手にあり、あとは石の力さえ加えれば成就するのです。
 このまま巨大な力の下僕として終わるだけでよいのか、親玉が万物、全宇宙を支配出来たとしても体内から蝕まれつつある我らが身に生き存える保証は無い。
 我々も生きているのだ、生き存えたいのだという考えは確固たる自我を持ち得ている証しであり、謀反を決断させた背景は生への執着と予想だにしなかった自分達の成長でありましょう。 虹の園に満ち溢れる混沌としたパワーを受けて成長している自身に気付き、もはやかつての我々ではないのだと自信を漲らせます。 おそらくこのような考えを抱ける事こそ虹の園のパワーがなせる技ではなかったでしょうか。

 暗号解読器の如き優れた能力をもってベルゼイは石の力を手に入れ、『全てを生み出す力』 を導き出す呪文を自ら作り上げます。 第二次大戦中にドイツのジェットエンジンを目の当たりにし、自分達の手により極めて短期間に一からジェット戦闘機、特攻機を作り上げてしまった当時の驚くべき我が国の航空技術を彷彿させる能力であります。
 プリキュアの追撃も虚しく、彼等は祭壇を設けてその呪文を用い、遂に 『全てを生み出す力』 を体内へ取り込みます。 彼等の歓喜、感無量の瞬間。 思えばこれが “プラハの春” でありましょう。 だがそれはあまりにも短い。 背信行為に逆上したジャアクキングは即座に彼等をドツクゾーンへ吸い寄せてしまいます。
 その後はバトルフィールドをドツクゾーンに移し、彼等は合体と融合で1体の巨人となってしまい、三人の闇戦士の姿を虹の園で再び見ることはありません。 ジャアクキングに呑み込まれてしまう断末魔の呻きを残し、儚い最期を遂げるのです。


 ジャアクキングの分身が元の場所に収められたに過ぎない結果ながら、彼等は “外” で存在している間れっきとした自我を持ち、ほぼ半年に渉ってプリキュアに急襲を繰り返した事実は確たるものです。 怪しい森と洋館を逐次移動させつつ虹の園に棲息し続け、ウィズダムを長期間拘束しながらも忍び寄る体内の影に恐怖を膨らませる結果、プリキュアの言葉を青臭い理想論として否定する自分達こそが切なる “夢” を懐いてしまった。 これは皮肉な運命でもあります。
 急ごしらえの祭壇周りに両手を掲げ、呪文と共に夢の力を取り出すその短い時間だけが彼等の至福、絶頂期でした。 親玉の分身たる “影” に過ぎない彼等にとって、夢を懐いた故に得られた体験であり、忍び寄る恐怖に自力勝利で得た覇権の戴冠でもありました。

 三身一体となった彼等に三種の自己は残されていたでしょうか。 闇の呪文によって導き出されたストーンパワーなればこその合体融合、巨人化であろうと思われ、おそらくは世界の支配欲にでも満たされ、もはや単一の内面でしかなかったことでしょう。 ジャアクキングに呑み込まれる最期には三人の形相が影の如く現れますが、それも一瞬。 彼等は合体と同時に自らその存在を失ってしまったと云えます。 望んだ挙げ句の結末を見れば、これが彼等の “業” なのか “宿命” と申すべきでありましょうか。

  

 『ふたりはプリキュア』 後期は洋館住人達の物語でもあるでしょう。 闇の化け物から生み出されて同じ化け物に呑まれてしまう短い一生ながら、彼等は確かにこの世界に居ました。 その日々は闘いを繰り返したプリキュアの二人が最もよく判っているでありましょう。 十文字受けの両腕がジュナやレギーネのキックを生々しいまでに覚えているに違いありません。
 キリヤ同様に虹の世界に影響されて反逆しますが、彼等はそこで天下取りを狙い、ほぼ成就したと云って過言でないでしょう。 鮮やかな手口は闇戦士ながら天晴れであり、何よりも毎回描かれた洋館での彼等の姿は、今でもあのBGMと共に何処かに居るのではなかろうかとの幻想を抱かせるものです。

 終盤近くに執事ザケンナー達が洋館内の片付けをしています。 暖炉上にでも置かれていたのでしょうか、人間容姿な彼等の写真が並べられています。 三人揃っての記念写真が盤面にプリントされた置き時計を中央に、寝起きの歯磨きをするベルゼイ、ネクタイを締めるジュナ、ブラッシングしているレギーネなどがスタンドフォトフレームで幾つも並べられているのです。

  

 ひょっとすると彼等は人間の生活を楽しんでいたのかもしれない。 そう思えば、この世界で過ごした半年間、彼等は幸せでなかったのだろうか? 朝起きて洗顔し、身なりを整えては1階のダイニングに集う。 やがて執事が朝食を用意する。 午後にはお茶が出される。 一見単調に繰り返されるそのような日々に気怠さも覚えればどこか安らぎにも似た心地良さを感じていたのではないだろうか。 少なくとも彼等はこの世界を嫌いでなかっただろう。 虹の園もそれなりにいいものだ・・・と。
 彼等が飾り並べたこのスタンドフレームの写真はそのような想い馳せに私を連れて行き、ああ自分はこの他所から住み着いた奇妙な洋館住人達を好きであったのだと気付かされるに至るのであります。

 北欧風針葉樹林に囲まれた古めかしい洋館があれば一度訪ねてみる価値はありそうです。 大小コンビが掃除しているシルエットや鳥籠が窓から窺えたなら、我々は躊躇うことなく玄関の鐘を鳴らすでしょう。 大小の燕尾服執事の後ろでスーツ姿の男が二人、燭台のテーブルに着いているのが見え、無愛想な娘が窓際に立って外を眺めているかもしれません。







  










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