重力嵐による宇宙での遭難という憂き目にあった災難事実はともかく、結果として見知らぬ惑星に降り立つしかなかった彼等であります。 まずは深呼吸も出来る無害なそこの大気と程良い重力に感謝しなければなりません。
 いきなり龍のような海ヘビに襲われ肝を潰す思いをしましたが、潮に乗せて上陸出来たことで、何とかSOSを発進してはこの地にて救援を待つしかないと、とりあえず命拾いした現状に安堵します。








 文明のない地で生き延びるため、彼等がどのように生活したかを見てみましょう。




 避難シャトルに装備されていたサバイバルキットは数日分の水とビスケットのような菓子食料、ホチキスに見えるソーイングの小型携帯ミシン、それにレーザーガン、サバイバルナイフとロープです。 この内、ナイフは海ヘビとの戦いで手放してしまいました。 彼等はまずシャトルが潮で持って行かれないようにロープを使って繋留します。 雨風を凌いで寝られる場所はここしかありません。


次に各人の持ち物を全て集め、どのような道具があって何が出来そうであるのかを検討します。 実習旅行出発時の班長であるメノリ指示の下、適切な行動です。




 衣・食・住で見れば、現在着ているものがどこまで耐久性を見込めるかはさておき、全員まともに着装出来ているからには 『衣』 はさしあたり問題にせずともよい。 『住』 もシャトルで寝ればこれ以上の安全な住居はないでしょう。 切実な問題は飲料水と食料です。 僅かなビスケットでは一口で費えてしまいます。


 草木があるなら木の実も果実も期待出来ましょう。 食べられる根茎もあれば芋もあるかもしれないし、海に目をやれば魚が泳いでいます。

 これら周囲環境から受ける食料調達への期待、その土台は彼等が初めて目にする自然界であります。 何か食料が得られるであろうという望みは、親や学校から教わっただけの未体験知識が殆どです。
 故郷のロカA2にも草木のグリーンゾーンが設けられていたかもしれないし、都市を構築している以上、野菜栽培用や畜産専用のドームもあったことでしょう。 しかしこの子達の生活には直接に縁の無いエリアだったに違いありません。 殊に、海という広大な水の原を彼等は見たことなど無く、この惑星で目の当たりにした感動は計り知れず、そこに魚類が生息しているのだという知識はあくまでも机上の学習によるものでしかなかった筈です。





 それ故に、魚を見付けたルナはまず手掴みを試みます。 最も原始の漁法であります。 捕れる訳が無く、彼等が魚を口に出来るのはカオルの技能による漁獲を待たねばなりません。 石器の槍で突く漁をしていたカオルは、やがて竹林を見付けて竹を切り出し、川にヤナを設けて生け捕る漁法も始めます。







 ワラビーに似たぴょんぴょん跳ねる動物と遭遇し、ルナ達は追い掛けますがその速さに付いていけません。 やがて彼等は落とし穴という罠を考え、それに向かって追い立てる追い込み狩猟を行うようになります。 穴に落ちて上がれない獲物を撲殺で仕留める狩りであります。
 レジャーハンティングの経験を持つハワードが弓を作るものの、まともな弓にほど遠いシロモノでしかありません。 カオルは秘かにこれを直してやり、使える本当の弓が誕生します。 これは主要な狩猟道具となり、後に脱獄囚と戦う武器としても使われます。



 ベルとカオルという少年二人は体験的知識が実に豊富で、この者達によってかなり生存確率が高められます。 これはこの作品に於いて、ロボット・チャコの存在と同様に生き延びる上で重要なポイントとなっており、この時代の少年がどうしてそのような事を知っているのか? という疑問は残ります。 先祖代々伝えられてきたお家の学習必須項目であったのか、直にそのような場所で父親から教わった過去を持つのか、サバイバルごっこが好きで小さい頃から図書館等で得た知識なのか。 いずれにせよ、他の子供達が知らない事、出来ない事をやってのける、まことに頼もしくありがたい存在であるのがミソと言えましょう。

 カオルという少年はパイロットを目指していただけあって動作が機敏であることは勿論ながら、道具職人のような一面もあり、器用な手先を活かして次々と道具を作り上げます。 木の枝を尖らせて即席の木槍をあつらえ、刃物になりそうな岩石を選んでは槍の刃、小刀を作り、骨を削って釣り針とし、シャトルの部材を叩いてノコギリも製作します。







 気は優しくて力持ちなベルは乾いた枯れ木を擦り合わせる方法で火を熾すことから始めます。 石斧や木製シャベルは彼の手によって作られます。 また、冬の到来を感じ取り、周囲の反対を押し切って洞窟に越冬用の住み処を拵えます。







 飲料水をどうするかという点で、そのまま飲める水を湛えた湖の発見は朗報であったものの、そこからシャトル近くまで水道を引っ張る工事は出来そうになく、地面に穴を掘ってタンクにする方法を考えます。 ゴムボートに飲料水を入れ、島中央の湖から海岸まで森の中をえっさえっさと運びます。 これは大変で、先が思いやられます。



 初め て「トビハネ」 を捕らえて食べた夜、血の通う温かな生き物を叩き殺してでも自分達は生き延びなければならないという現実が身に浸みます。 北の山頂から眺めたそれは四方を大海に囲まれた孤島でしかありませんでした。 通信機も使えない今、どれだけの年月になるのか見当も付かぬまま自らの手で殺生を続けながらここに生きねばならないのです。
 肚を括った彼等は、村組織を形成するに至ります。 リーダーの選出であります。 個性豊かな上に好き勝手な行動では捕れる獲物も捕れず、やがては反目し合った末に全員のたれ死にするであろう最悪の結末を直感的に避けたのです。
 旅行出発時に選ばれた班長はクラスの生徒会長を務めていたメノリでした。 そのまま単純におまえでいいじゃないかという判断です。 しかしこの無人島に於ける数日間、及び重力嵐に遭遇してから島に上陸するまでの危機回避を顧みて、ここはルナが適任であるとされます。 放っておけない見過ごせないという我等がルナちゃんの飛び抜けた行動力と判断力が彼等に必要とされたのであります。




 シャトルが破壊されてしまったのを機に、ではいっそ湖の岸部に家を造ろうとなり、彼等は鍬を作ってここでイモ栽培の農耕も始めます。 これは少々驚くべき事であります。
 その日食べるだけの狩りや果実採りをするのではなく、家を建てると同時に食物の貯蔵を始めるのです。 その延長にあるのが農耕で、捕った魚も開いて干物にし始めます。 そして、海水を金属板の上で天日に干し、塩を得るのです。 まさに人類の村社会の黎明を見る思いであります。
 それにしてもどこで知ったのか驚異の知識。 彼等が何年もここにいたのなら、偶然の積み重ねによって干物も燻製も製塩方法も身に付ける可能性はあるでしょう。 しかし彼等が極めて短期間にそれを始めたということは、予め持っていた知識であると言わざるを得ません。 これもロボット・チャコのデータベースのおかげでありましょうか。




 メカ・オタクな飛び級神童のシンゴによる設計で、大樹の上に造られた家は壊れたシャトルの部材が使われ、滑車を使って湖水を汲み上げる装置も考案されます。
 身体を洗うのは川や湖での水浴びであっただろうと思われ、その度に男子は遠くに追いやられなければならず、シャワー室の増設がなされることになります。 上部タンクは人喰い花の蜜壷を採ってきて使い、紐の首縛りで水を止める構造は単純ながらもどこか懐かしく、ニヤリとさせられます。
 惜しいのは、この子達に 『筋交い』 や 『火打ち』 という構造概念がない点でありましょう。 全て方形に組み合わされた骨組みです。 横揺れの外力を逃がすには良いが、あまりにも弱い。 これでは蜜壷の大きな上部タンクにどぼどぼと水を注いだらゆさゆさ揺れて崩壊してしまいそうです。 冬の吹雪にべしゃっと潰されなかったのは幸いと言わねばなりません。


 用足しはそれまで不特定な山の中であったでしょう。 その度に独りで山の中に入らねばならず危険であり、家を造った以上はどこか近くにトイレを設けねば不便なことに変わりない。 裏手の崖下、畑の横に設けます。 劇中、ハワードは 「なぜこんな離れた寂しい場所に設けたのか」 と己のものぐささを棚に上げてはブツクサ呟いておりますが、水洗トイレにするにはかなり大掛かりな工事になるため、それは仕方ありません。 如何なる構造にしたのか、下水道がない以上は便壺を置いて度々遠くへ棄てに行ったのか、或いは掘り込みの汲み取り式であろうと思われます。 穴を掘ったのであればバキュームも無ければ下肥桶も無いのですから、かなり深い穴にしておいて一度も汲み取りしなくて済ませたものと想像します。
 このトイレドアは内側ロックが紐で固定するようになっており、ドア外側把手に縦桟木の枝をそのまま利用している辺りが心憎いものです。




 オオトカゲの侵入を防ぐべく畑を含む家の周囲に柵も造ります。 また、洗濯物や食器の洗い場も設け、これは柵の外にされています。 飲料水汲み上げ位置からなるべく離したということでしょう。









 改めて彼等の家を見てみましょう。


 大樹の上に造ったのは正解です。 高床式と同じ発想で、雨降りに流れ込んでくる心配はなく、床下に風が通れば湿気る心配もありません。 第一にあの恐ろしいオオトカゲのような野獣が上って来れないという風に安全性も高いのです。
 きちんと男女別に部屋割りされ、食事は主に湖畔の広場に設置したテーブルと石竈を使って済ませますが、雨の日は見晴らしのいいリビングで摂ります。 夜は星明りと月明かりに頼り、夕食時は調理用石竈の火明かりが照明になります。 リビングなどで使う油皿の灯明はシャトルから持ってきた何らかの油脂類を燃やしているのか、それとも山で採ってきた木の実の油なのか、定かでありません。
 水回りについてはおそらく調査を繰り返した後に決めたのだろうと思われ、上水は湖水をそのまま汲み上げてタンク貯水、食器洗いも洗濯も柵の外の専用場で行うので、家から出る排水はシャワーだけです。 シャワー室からの排水流末が上水汲み上げ場方面に向かわないように導いてやりさえすれば良いのです。 湖水の対流方向を調査した結果、多分上水汲み上げ場の方が上流側だったのでしょう。



 彼等の生活の推移はそのまま古代人のそれと重なって映ります。 腹が減ったら漁なり狩猟なりを行い、その都度必要な分を手に入れるという初期段階は、人類が獲物を求めてアフリカから全世界へ進出していった頃と同じです。 やがて農耕、定住することを覚え、合議制で長 (おさ) を選出しては村集団を形成するのは、彼等がルナをリーダーとし、家を造り、芋を植え、食料を常に備蓄し始めるのと重なるのです。
 定住となればそこに生活文化というものが発生し、一定のプライバシーを重視するようになり、生活パターンの中に “わきまえ” というものが見られるようになります。 寝る場所はここ、食事するのはあそこ、というように、シャトルの座席で屯していた頃にはなかった目的別のスペースを使い勝手良いように彼等は造り上げます。 これは元々高度文明の中に暮らしていた子供達がそれに準えて計画しただけでありますが、日々月々の成り行きを見る限りは古代人類の生活推移を辿るかのようで、興味深い部分です。


 しかし冬の到来によって、彼等はベルの造った越冬洞窟の家に移らざるを得なくなります。 ここではシャワーもトイレもありません。 簡易作りの二段ベッド、三段ベッドにほぼごろ寝状態で過ごさねばなりません。 ここは家と言うよりは緊急避難用シェルターであり、毎日続く豪雪と吹雪に耐え忍ぶには贅沢など言っていられないのです。
 冬が過ぎ去って我が家に戻るものの、すぐさま海賊のような脱獄囚がやって来たため、それらと戦う中で家を放棄して東の森の遺跡に逃げ込みますし、悪漢共を退治した後も遺跡が破壊された騒ぎや渡航船の建造に追われ、大樹の上に造られた 『みんなの家』 を中心とする生活は冬明け以降殆ど描かれません。



 建造船・オリオン号で大海原の向こうにある大陸を目指し出航する事によって、この無人島に別れを告げることになります。 大海の航海も大陸に渡ってからの進行も波乱に満ちた冒険が続きますが、自然の中で極めて野性的、且つ手探りながらも創意工夫に満ち、束縛の無いある種奔放な生活を送った日々はこの無人島にいた期間であります。 おそらく生傷の絶えない毎日であったろうと思われ、そこで培った共同意識や連帯感は特殊な状況下に置かれていたが故に格別の想い出に違い無く、養われた逞しい前向き姿勢はその後の彼等にとって実に重要な精神、人生哲学の基盤となったであろう事は疑う余地のないところであります。


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