子供達が宇宙で遭難。 とある惑星の潮汐力により引っ張られ、そこに漂着することになります。 宇宙開拓時代の 『十五少年漂流記』 のような物語。

 大前提としてあるのが、この未知なる無人惑星は我々の地球そのものと言ってよい程に酷似しているという環境条件であります。 その大きさや母なる恒星、衛星である月も我々の太陽系そのものです。
 大気中の酸素含有量が僅かに多めであるくらいな違いで、塩分を含む海や動植物の生態系、進化の様は全く同じであります。 人類文明が全く無いもうひとつの地球にこの子供達が漂着したというに等しい設定ですので、暦、即ち当該惑星の公転周期や自転時間もまず地球と同じだと想像して差し支えありません。 従いまして1日がやたら長いとか重力の違いによりこの子達の骨に異常が生じる、筋力が低下するなどの問題も無さそうです。


 それは彼等の故郷であるコロニー・ロカ A2 が設けられている衛星の大きさも我々の地球とほぼ同じなのだろうという推論に繋がり、如何に宇宙開拓時代とはいえ、人類が生息するにはまず似たような大きさの惑星でなければという選択を意味するものでもあります。

 ただし、彼等が遭難漂着した惑星表面の自然は、かつてここに存在した異星人の科学技術、テラフォーミングによって作られた環境であることが後日判明します。





 惑星や衛星上のコロニーという人工的な生命維持環境は外部から隔離されており、そのため人類がその天体の持つ自然環境に触れることはありません。 彼等の故郷ロカ A2 というコロニーは土星のような輪っかのある巨大惑星の衛星上にあります。 クレーターなどを見れば月面に似ていまして、大気を持たない衛星なのだろうと思われます。


 そのコロニーで生活をしていた身でありながら、この子達は自然界に対する実に様々な事を知っていました。 果実があれば採取し、漁も狩猟も火の熾し方も知っていました。 原始人類のようにおぼつかぬ手付きながらも、惑星の自然界の中で生き延びる術を心得ていたのであります。




 第1話の主人公・ルナを見れば、コロニーに於けるハイテク満載のマンション住まいな彼女達の生活が窺えます。
 目覚めたベッドの彼女はジャケットこそ脱いではいるものの着ているものは昼間のままで、うたた寝がそのままになったと考えられもしますがシーツの一枚もありそうでなく、人間の体温変化や発汗状況に合わせて刻々自動調整が成される空調システムとベッドの構造であるらしく、衣類、特に下着の材質も現在の綿などとは甚だ異なるのであろうと想像出来ます。




 洗面台の前に立ってそこに顔を伏せるだけで洗顔され、お椀形の整髪器も用意されています。 相棒ロボットのチャコが用意している朝食は瞬時に解凍可能なファストフードではないでしょうか。 動く歩道上は走ること禁止になっていて、ルナは裕福でない故に公共交通機関料金をケチっているものの、人々はみな運動不足解消目的で道路上にいます。

 これらのコロニー情景から得るのは至極平和な世界であり、生活の上で何も不自由はないのだろうという事、それはまた鳥のさえずりに目覚めたり波の音と共に潮風を浴びる事などありようもない全方位人工物で守られた社会であるという事です。 ここでは魚の釣り方、トマトの育て方、火の熾し方など、そのような事は知らなくても全く差し支えありません。

 しかしながら、宇宙開拓時代にあってテラフォーミングというものが現在の土地開発事業の如く日常茶飯事な行為であるならば、自然界相手にとるべき基本的な行動、技術や技能というものは彼等にとって逆に最も必要不可欠な知識であるのかもしれません。
 物語に登場するベルのように、子供達の中には両親と共に惑星開発最前線にいた幼い経験を持つ者もいるでしょうが、それは希な存在でしょう。 実際に自然に触れたことのない大半の子供達にはこの時代、例えハイテク・シミュレーションにせよ自然界に対する心構えや対応のマニュアルは義務教育の根幹たる課程であらねばならない受講の必須項目ではないでしょうか。



 遭難漂着したこの子達に何が幸いしたかと言えば、小さいながらも実に膨大な情報量を携えたチャコという猫型ペットロボットを連れていた事であります。 ここが当作品サバイバル物語のまず第一のミソであり、意図して同行させていた訳ではないにせよ、このロボットの存在無くして彼等は未知の惑星で生き延びること叶いません。



 彼等は何も持たずにその身ひとつで漂着したのではなく、生きるためにこのサイエンステクノロジーを用いる事が出来るという頼もしい手段を最初から持っていた訳で、これは幸いにもサバイバルナイフを所持していたなどという漂流者レベルとは大きく異なります。
 ロボットのチャコは口から食べた食物の糖分を分解し、燃料電池用水素にして動力としています。 燃料電池は出力ポートから外部機器に電力供給出来るので、メカに長けた神童・シンゴには重宝な電源となります。 また、生命維持に必要な医療知識が子供達には殆ど無い。 チャコは最先端医療診断は元より、栄養学や薬剤等の豊富なデータベースを持っており、大気の分析から始まって樹木の虫食い状態まで見ることが出来ます。 その目はホログラム投影が出来、家を造る際には測量機器としても活躍します。


 SFの冒険活劇には違い無い。宇宙の磁気嵐、遭難という広大なスケールのスペースオペラであります。 一方、無人島での漂流記という汗臭く土の匂いがするアナログさ、更には異星人との遭遇やファンタジックなマザーコンピューターとの触れ合いと、雑多混在に見える内容でありますが、「なんとしても生き延びて帰る」 という意志によってこれらは串刺しに繋がれており、次々に見舞われる災難の克服で成長してゆく子供達が生き生きと描かれます。




 主人公・ルナの容姿には江口寿史の特色がよく出されているように思います。 デニム系のような活動的スカートに丈夫そうなジャケットも活発で前向きな少女に相応しく、そして彼女達はとにかく走ります。 いや、走らされると言った方が良いでしょうか。 コロニー・ロカ A2 でも走らねばならず、惑星に漂着してからは獣に追われ、脱獄囚共と戦い、大陸のマザーコンピューターに近付いても走り回らねばなりません。 走って跳んでの危機一髪はさすがに冒険活劇という趣向であります。




 設定上とりわけ目を惹くのは、ハイテクに守られて生存している時代の子供達が自然界に放り出されるという面白さで、肉食獣相手に石槍や弓で相手しなければなりません。 文明の欠片もない場所で生きる以上、現在の我々が忘れがちな事柄についても触れます。 食物連鎖と雑食人類のなせる “業” であります。 生きるためには喰わねばならない。 その手で殺生を犯さねばなりません。


 魚を捕って焼くのは割合に抵抗がないものの、温かな体温を持つ哺乳類を叩き殺して喰わねばならない。 ぶ厚く肉汁に満ちたステーキも、その前には屠殺という行為があることをエピソードは視聴者に提示しています。 嵐で海に投げ出され、たった一人孤島で過ごすルナ遭難の場面はまさにサバイバルそのもので、水と食物を得ることの困難さが描かれており、偶然にも手にした一匹の小さなカニを焼いては貪り喰う姿があります。 生々しい映像にしてはいないものの、人が生きる上では周囲にある生き物全てが餌である事を再認識させる情景であります。


 初回からの3話はプロローグであり、第4話から彼等の 「生き延びる闘い」 が始まります。 広大な規模のスペースロマンから一転、これより無人島での漂流者という狭い範囲に限定された原始的な物語展開となります。 彼等は無人島の自然界と否が応でも付き合わねばならず、衣食住の原点から始めなければなりません。 この子達の精神的成長や意識の移り変わりと共に僅かずつながらも着実に “進化” を見せる彼等の生活が興味深いところで、自分達の手で好きなように設計して家を造り上げ、そこを拠点とするのは、現代社会の子供達にも未だ好まれて止まない 『秘密基地ごっこ』 のようでもあり、室内にてゲーム機ばかり弄っている視聴児童達には新鮮な面白さがあった筈であります。

 やがて異星人との遭遇、この惑星や遺跡の謎解きの始まり、冬の到来、海賊のような脱獄囚との戦い、船の建造など、次々と新たな展開がテンポ良く盛り込まれ、飽きさせません。
 大陸に渡った辺りから再びハイテクのSF色が濃くなり、最後は壮大なスケールのスペースロマンへと回帰する一連の流れを改めて振り返れば、無人島での生活は泡沫の夢物語にも思えます。 が、しかし、この作品が見せたかったのは他ならぬその短い期間の無人島生活であり、野生児さながらにあくまでも肉体と五感、寄せ集めた知識を駆使しながら懸命に生き延びる子供達の姿です。
 困難をどう克服するのか、その時に何を考えて動くのか、放り出された我々は家族として共に生き延びよう、必ず故郷のコロニーに帰ろうという結束の下、励まし、怒り、恋もする、生身な少年少女達の夢と逞しさが詰められた、マッドハウスとテレコム・アニメーションフィルムによる共同制作の一本。  まずは一度御覧下さいませ。
 ■ このサイトはアニメの単なるファンサイトです。特定の個人・団体の
   著作権や利益を侵害する意志を持つものではありません。
   お気付きの点が御座いましたら、下記宛までお知らせ戴きたく存じます。

 ■ このサイトに関する全ての画像・テキストは転載を禁止します。


SITE TOP 作品概要 植物 動物 生活 ルナ -1 ルナ -2 ルナ -3

SITE TOP 作品概要 植物 動物 生活 ルナ -1 ルナ -2 ルナ -3