愁いを含みながらも深淵にて、時に遠くを望むような双眸。閃光の戦斧を自在に操るその寡黙な少女は、高町なのはにとってもかなりなインパクトであったでしょう。




 猫に取り憑いたジュエルシードを巡って最初の争奪戦、二人の出会いとなります。双方共に自分以外のこの蒐集者を見るのは初めてで、それはどう見ても同い年ぐらいな少女でした。




 気を失い倒れたなのはを見詰めるフェイトの眼差しには、立ち去るにも何かしらこの場に後ろ髪引かれる思いが表され、心憎い映像です。何故にこんな子がジュエルシードを求めるのかという疑問もあるでしょうし、ド素人がもうこんなことはやめるんだよとでも言いたげな表情は、作品中のフェイト・テスタロッサの位置付けをある程度語っておりましょう。




 なのはが二人のクラスメイトであるすずか及びアリサと友達になった過去のいきさつは、短めの回想で描かれています。これがまたすこぶる簡潔で巧い。きっかけの出来事は勿論、それに絡めた三人の性格表現も的確にツボを押さえ、それ故今の状況下に何を考えるのかまで誰もが納得出来るものです。
 これを見れば、なるほどフェイトと出会った高町なのはが、あの金色の髪の子と友達になれないだろうかと真っ先に考えそうであることは、容易に理解出来るところであります。




 白と黒の対立構図ながら、恨みがあるのでもなければ憎しみを持つのでもない。初作品に於いてフェイトが見る高町なのはは自分の仕事にちょっかい出してくる邪魔者です。母が望むようにジュエルシードを集めれば、優しかった母さんに戻ってくれる。記憶の中にのみ存在する優しい母を求め、そのためには今の厳しい蒐集作業も苦しい折檻も厭わない。フェイトは母からの愛しみの手が欲しいだけで、他に何ら望むものではありません。ま・・・いいのかな、私は優しい母さんが大好きだから・・・と呟いてなのはとの最終決戦に臨むのは、別段この白い服の子が憎い訳ではないのであり、この子を排除するのもジュエルシード確保に至る過程の作業に過ぎないという姿勢が表れていましょう。




 第1作目はフェイト・テスタロッサ救済物語にはなります。しかしそれは結果であって、友達になりたいと願うなのはが如何にして頑ななフェイトに心開かせるのかが物語本筋です。フェイトが極めて特異、且つ悲しい身の上であるが故に困難な行為ですが、自分はフェイトちゃんと全てを分かち合いたい、友達になりたいんだ、だから二人で仲良く半分っこしようと言うのは泣かせるセリフであります。

 単なる魔法少女アクションに終わらないこの作品。両親と兄姉の愛情に包まれて何不自由なく真っ直ぐに育っている高町なのはの対極に、非情な運命に振り回されてはあまりにも報われぬフェイト・テスタロッサが置かれている構図。白と黒、光と影、陰と陽、物事全てについて回る裏表が感じられましょう。ある日出会った二人は、片方が時空管理局という警察権力に似た組織の民間協力魔導師であり、もう一方はやむなき事情とはいえ時空管理法違反の片棒を担がせられている凄腕魔導師だったのです。
 真っ白な少女が差し出す手の温もりに気付かず、相棒の涙の制止も振り払っては黙して運命のレール上をひた走らねばならないプログラムマシンの如き悲哀。その暴走少女を助けようと組織の規律に反してまで駆け付ける白い子に、意味も解せずただ当惑。なのはの思いがなかなか通じぬもどかしさと、歩むこと可能な他の選択肢を与えられないフェイトの環境が幾度もぶつかり合います。同じ白黒でも互いに近付きたいとした『ふたりはプリキュア』との違いはここにあります。




 今からなのか、これからが“私”の始まりなのか。前を向いて生きようというフェイトの精神に応えるバルディッシュ。いい場面です。1作目の第12話はテスタロッサ母子のクライマックスであります。
 これからはフェイトの時間は全部フェイトの自由に使っていいんだから、と言い残して戦闘現場に立ち去る使い魔アルフ。思えばこんな素晴らしい使い魔をフェイトは生み出していたのです。
 事ある毎に自分の周りをうるさいハエの如く飛び回っていたド素人の子。思えば、真っ白な服のその子は初めて対等に正面から自分を見詰め、何度も自分の名を呼んで向き合ってくれた・・・。
 ひび割れだらけなバルディッシュが果敢にも主を促すが如く応えて再起動するに及び、ただ涙、号泣であります。ああバルディッシュ、この薄幸な少女にお前もずっと添っていてくれたのだな・・・・と。


  この第12話では「今迄も独りではなかったのだ」と自分に寄り添ってくれていた者達の存在認識があります。フェイトにとってはアルフであり、なのはであり、そしてバルディッシュです。やがて、復活を遂げた閃光の戦斧とフェイトにより、本当の意味での『二人で一緒に』闘う白黒ペア誕生を見ることになります。その流れそのままに、なのはもまたユーノ君について、いつも背中が温かいから戦えると、フェイト同様、かけがえない相棒の存在再認識に至るのです。


 フェイトがようやくこちらを向いてくれた時、言葉にならずウン、ウンと喜びに頷くなのはには大変感動します。この田村ゆかりによるウン、ウンというトーンとコンテの間が良く、後のリボン交換の場面にも見られますが、当管理人は大層気に入っており、小学生のなのはといえばこれが象徴であるかに思えます。

 母以外の人を知らず、話す相手はいつも使い魔のアルフだけであったフェイトは、人と接する術など知りません。ましてや度々ぶつかり、自分に多大な影響を与えた同い年くらいな高町なのはには尚更です。地獄の底から復活した時も、本局移送前に会いに来た時も、また、裁判の後に再開した時も、フェイトはなのはの前に立つものの、どうしていいのか分かりません。このフェイトの描き方が実に良く、ちょっと斜めに構えてみたり、横目で窺ってみたり、それでもこの眩しい子と向き合って話したい心情が丸出しにされており、微笑ましいものです。それ故、初めて「なのは」と呼ぶ場面はフェイト・テスタロッサ救済の完結であり、感動を呼びます。









 9歳の少女が裁判に掛けられるというのは、幼いとはいえフェイトが突出して優れた魔導師であるがため。そして罪は罪。充分に社会的責任能力があるとした設定でしょう。これが現在の家庭裁判所のような司法機関であるのかどうか定かでありませんが、クロノ・ハラオウンの口ぶりからは事件の重大さが見て取れ、現在の刑事事件扱いな裁判であったろうと想像する次第です。
 「リリカルマジカル」なるフレーズと、裁判だの更正だの保護観察処分だのという語句は、どうにもすんなり結び付きません。お花とケーキの夢舞台にドロドロした生々しい現実世界が混ぜられるようで、これはこの作品の特徴的な部分です。元より、魔法という非科学的な術にサイエンステクノロジーを組み入れたお話しですから驚くこともありませんが、それ故に斬新であり、幼顔キャラクター達の口から現行少年法、少年審判を語る如き内容が飛び出すのには舌を巻きます。

 保護観察処分の判決を受けたフェイトは時空管理局顧問官ギル・グレアムの保護観察の下、時空管理局嘱託魔導師となり、使い魔アルフと共にクロノ・ハラオウンの指揮下に入ります。正規な時空管理局員でなく、あくまでも民間協力者の嘱託扱いであることは、本人の意志から買って出た協力であろうし、なによりも保護監察下にある立場なのです。それに服している以上、如何に有能な魔導師であろうと正規局員としての登用は出来ないでしょう。





 一級捜索指定ロストロギア『闇の書』事件に関して担当することになったリンディやクロノ達は、本部となる艦船アースラがドック入りなため、2作目では現代日本の世界に臨時捜査本部としてマンション住まいすることになります。これによってフェイトもなのはの学校に通う転校児童という別顔を持って、なのはの友達の輪に加わります。




 リンディさんにケータイを買って貰う場面があり、手渡されたフェイトの様子は、欲しがっていたものを買って貰えた普通の少女でしかなく、到底3A級魔導師の顔ではありません。それを所有することによってこの世界の一員になれる“資格”の如き感覚であるのかもしれない、また実際なのはやその友達の日常を見ればそうなのであろうと考えれば、我々の現実社会に生きる子供達と全く同じであると思え、少々複雑な思いに駆られます。
 子供にケータイを持たせるのは如何なものかという議論が渦巻く昨今ではありますが、『リリカルなのは』という作品はケータイ及びそのメール無くして成り立たず、当然のことながら、この作品世界に出会い系サイトや少女買春、児童ポルノなどというけしからんものはありません。彼女達の日常重要アイテムである点だけは実際の現代社会と同じですが、彼女達はまことに安全な環境下でケータイを使う事が出来ます。かくなる社会であって欲しいものであります。




 フェイトにはクロノの母リンディ・ハラオウン提督から養子に迎えたい話も持ち上がり、やがてハラオウン家の養女となるため、2作目『A's』のEDでは既にリンディさんがフェイトのお母さんになっており、そのED以降3作目『StrikerS』ではその名もフェイト・T・ハラオウンとなります。

 母に騙され続けた挙げ句に棄てられ、その母も亡くしましたが、フェイトはなのはの力で立ち直ったと言って過言ではないでしょう。フェイトのいじらしくも健気なところは、消えゆく最後まで微笑んでくれなかった亡き母・プレシアをそれでも愛し、恩情を抱き続けるところです。肉親の情と言ってしまえばそれまでながら、後にも先にも生みの親はプレシア・テスタロッサ一人なのですから、無理からぬところであり、また人心が乾き切った今の世に“慕い続ける心”が描かれるというのは温かく嬉しいものであります。ハラオウン家の養女となっても、フェイトの母は新しいリンディ母さんと生みの親プレシア母さんの二人なのです。








 『A's』に於いて闇の書と戦う中でフェイトは闇の書に取り込まれます。覚めぬ夢の中で終わりない夢を見続ける、それは永遠なのであるというのが闇の書が抱く意志であります。そこに展開されるフェイトの夢。楽園に暮らす優しい母さん、そしてアリシアもいる。その母はフェイトに微笑みかけ、頬を撫でる。欲しかった時間、フェイトが求めて止まなかった時間でありました。
 母の愛を求めながら報われるところ一つも無く、過酷で悲惨な結末に終わった1作目のフェイトの思い。それを補填するかのようなこの夢世界は、制作スタッフによるフェイトへの思い入れではなかろうかとも考えます。なのはに心開き立ち直りはしたものの、母への思いが一方的なあれではいかにも可哀想ではないかという涙声も当時あちこちで聞けたものです。




 嬉しい。確かに幸せな時間。だが、これは夢なのだとフェイトは呟きます。前を向いて生きようと決めた自分は夢の中に留まる訳にいかない。フェイトが亡き母に寄せる思いはここにひとつの精算を迎えます。これはスタッフがどうしても組み入れたい一節であったに違い無く、夢を見させられるというエピソードを用いて、未だフェイトが持ち続ける母への願望を表側に示してもいます。またこれによって願望を追い続ける事に対するひとつの成就と決別が生じ、名残惜しいけれども自分はここから出て行かねばならない、帰らねばならないと、確立された一人格として生きてゆく強さをフェイトに与えたように思います。夢を見続けるのだという闇の書の意志を内側からぶち破る行為は、冗談じゃない、ここに確固たる今のフェイト・テスタロッサの人格があるのだという逞しい姿に映ります。









 『StrikerS』で彼女はエリオとキャロに出会い、保護します。この二人は後に機動六課のライトニング配属となり、保護者であったフェイトに恩情と尊敬の念を抱く師弟の関係でもあります。フェイトにはかつてアリシアという見知らぬ姉がいたものの、それは上記闇の書の中で夢の一節に出会い話しただけの幻で、実際に姉の手に触れたこともなければその体温を感じたこともありません。エリオとキャロは実在する弟妹の存在と言って良いでしょう。この小さな二人を両腕にて抱き込む大人のフェイトを見ると、じんと胸に来るものがあります。

 ただ、忌まわしき過去は3作目にしても付いて回り、時空管理局執務官として追い続けていた広域指名手配の時空犯罪者ジェイル・スカリエッティは、生みの母プレシアの人造生命生成研究以前にその原案を生み出した奇才科学者でありました。その理論は即ちフェイトがこの世にいる要因の根源であり、この男なくしてフェイトも生まれず、また母と自分の悲劇もなかったでしょう。
 過去の『プロジェクト・フェイト』を語るスカリエッティとそれを聞かされるフェイトを見ていますと、彼女が背負い続けねばならない消せぬ過去と因果、宿命というものを改めて突き付けられる思いであります。その名も“Fate”という英綴りが示す通り、避けられぬ運命の鎖を引き摺らねばならず、10年経ってもこの女性は“Fate”なのだと、3作目の彼女を語る上で必要とされた場面でしょうし、エリオとキャロにも“謎を持つお姉さん”で終わらせる訳にもいきません。フェイトがスカリエッティを倒す場面、つまりぶっ飛ばすシーンですが、かなりの迫力を伴っており、人道、倫理というものを私欲に置き換えて弄ぶ性(さが)への怒りであろうと思われ、この男を倒すのがフェイト・T・ハラオウンであるが故の強烈な印象であります。








 聖王の器とされる幼い少女ヴィヴィオをなのはが保護責任者として預かり、フェイトはその後見人となっています。『StrikerS』第16話ではフェイトとヴィヴィオの二人だけの前にリンディ母さんから連絡が入ります。ここに見るリンディさんは娘と孫に会いたがるただの婆様のようで滑稽です。リンディ母さんとフェイトのやりとりを聞いていますと、年寄りの甘えがあれば、やれやれいつものことだと溜め息付くような娘の様子もあって、我々の私生活にお馴染みな光景。それはすっかり母と娘になっている現状を表しているものです。

 並べられている二つのスタンドフォト。テスタロッサ親子とハラオウン家の写真であります。興味深げに双方を見比べるヴィヴィオに対し、フェイトは説明します。プレシア母さんが私に命をくれて、リンディ母さんが今も私を育ててくれてるのだよと。どっちの母さんもフェイトママにとっては母さんなんだよと。しみじみと感慨を含み、幸せそうに語るのであります。これが年月の経過、成長というものでしょう。このように安らいで戴きたい、幸せになって戴きたい、そう思うフェイトファンは決して当管理人だけではないでしょう。


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