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御高倶山・・・・・・朝霧も瑞々しい神聖な山並みが続く。 |
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その山を遥か向こうに望む・・・ |
辺路寝の湊町・・・ | ![]() |
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それらの中央に広がる高台、芝草ヶ原があった。 双方から集まった強者共が南北の隅に砦を築き、 合戦を一目見ようと押し掛けた野次馬群衆が小高い 丘の上に押すな押すなと弁当持ちで陣取っていた。 今まさに大喧嘩の火蓋が切って落とされようとしている。 |
ワイワイ・・・・・ガヤガヤガヤ・・・・ 「おお、今日はまたえれぇ賑わいだな」 「なぎ次郎一家と勝蔵一家だかンな、そりゃ見てぇさ」 「どっちでぃ? ええ勝負じゃねぇかぃ?」 「そうさなぁ、力のなぎ次郎に技の勝蔵ってぇとこか」 「メグ蔵さぁーん! あ、こっち向いた! キャーッ!」 「なんでぇ、きょうびぁ女子供まで来てやんのけ?」 「知らねぇのか、えれぇ人気なんだぜ。メグ蔵なんてなぁ 男前だでよ、娘っコ達ぁハチマキ縫って一家へ届けるん だそうでぇ」 「おお、あの赤ぇハチマキぁそうかい。羨ましいのぉ」 |
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「おぅおぅ婆さん、ヨタヨタ危ねぇじゃねぇか。ここ座ンな。 おい、おめぇら、もちっとそっち詰めてやれや」 「すまないねぇ、やれありがたや」 「なんでぇ、婆さんも弁当持ちで来たのけ?」 「そうだよ、これを見なきゃ死にきれないからねぇ」 「お、瓦版屋の咲兵衛め、一番いいトコ座ってやがる。 へ、ちゃっかりしてやがらぁ。抜かりゃねぇや」 「そりゃそうだろう、ヤツにゃ最高のネタだかンな」 「勝蔵おやぶーん! キャーッ! キャーッ!」 「うるせぇな! このアマっ娘らぁ、静かにしてろぃ!」 「なによォ! エラソーにっ! 汚いアタマ引っ込めてよ、見えないじゃないよ!」 |
「いいかてめぇら、めぇにも言ったようにな、この喧嘩ぁオレの最後の仕事だ。莉奈吉も志穂松もメグ蔵もだ、こいつらも道連れに足ぃ洗わせる! だからよ、俺達ぁ悔いのねぇようせいぜい暴れてやるつもりだがな、てめぇら若ぇモンも後れを取ンじゃねぇぞ!」 「へぃっ!」 「間違ぇなくこンめぇの格闘一家たぁ強ぇ相手だ。一家束ねる勝蔵ぁただモンじゃねぇ、えれぇアタマのキレる男だ。多分こっちのやるこたぁ知り抜いてやがンだろう」 「ほんじゃ、何か秘策でもありやすんで?」 「ンなもなぁ、ねぇ」 「へぇ?」 |
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「オレもそうだけどよ、てめぇらどいつもこいつも鏡ぃ見てみろぃ。 ダンビラ振り回すしか能の無ぇ半端モンのツラだろうが。アタマでヤツに勝てるたぁ思っちゃいねぇさ」 「おお、さすが親分! その通りでやんす!」 「だろぅ? だからよ、要らんこたぁ考ぇるねぃ!」 「へぇ・・・じゃあ・・・?」 「面子を潰したかねぇ意地でぃ! 知ってるかぁ? 俺達ぁ街道一ってぇ噂されてるらしいぜぇ。てぇしたモンじゃねぇか。けど他に何があんでぃ? 食み出しモンにゃそれしかねぇだろう。世間に売ったなめぇをよ、踏ん付けられたんじゃお終ぇだぁな」 |
「面子だけぁ潰せねぇんだ。意地でもな!」 「へぃ!」 「オレぁてめぇらのそいつを信じちゃいるのさ。そン時何をしにゃいけねぇかってなぁアタマで考ぇんじゃねぇ、負けらンねぇ意地さえ持ってりゃ勝手に動かぁ!」 「へ・・・へぃ!」 「だからよ、策もなんにもねぇ。 あたぁ向こうの出方しでぇで どうすりゃいいか、細けぇこたぁてめぇらでやれぃ。 ここじゃくたばれねぇ、仲間ァ死なせらンねぇ、負けらンねぇ、 そいつだけありゃいいんでぃ。いつも通りの喧嘩でいくぜぃ! 見せてやろうじゃねぇかぃ、 これが辺路寝湊の意地の喧嘩だってぇのをよ」 「へぃ!」 |
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「てめぇら、みな飯を喰ってきたけぇ?」 「へぃ! きのうの残りの『かれぇりゃあす』まで平らげて きやした!」 「よぉし、上等でぃ! フンドシぁ洗っちゃ来たろうな?」 「へぇ! まっさら、おろしたてでやす!」 「よぉし! もう言うこたぁねぇ! 今日の日まで来れなかった不憫な奴等ぁ一緒に喧嘩場へ 連れてってやろうじゃねぇか。 野郎共、輪ぁ作れぃ!」 |
「いいかぁ、奴等一人一人のツラぁ想ってよ、 オレに憑いて来いと念じてやんな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「親分、なんだかしんねぇけんど、三人めぇぐれぇの力ぁ付いた 気がしやすぜ!」 「あっしもでさぁ!」 「よぉし、いいだろう!」 |
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「今日の晩餉は鯛飯でぃ! 腹ぁいっぺぇ喰わしてやるぞ! 御高倶山をやっちめぇーっ!」 「オオーーッ!!」 |
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「なんてぇ奴等でぃ・・・・! 親分、奴等ぁ晩飯で気合い入れてやすぜ」 「あれが美墨一家だ、よく見とけ」 「ふざけた野郎共でやすね」 「・・・・そうじゃねぇ」 「へぇ?」 「・・・・そうじゃねぇんでぃ。オレぁこン目と肌に焼き付けて来た。あのふざけたよな一家から滲み出る、えてぇの知れねぇモンをな。あなどンじゃねぇぞ。舐めて掛かったら、いっときもしねぇウチに陣を崩される。いや、それだけじゃ済まねぇかもしんねぇぜ!」 |
「奴等のなめぇとツラぁ頭ン中で合わせてあんだろうな?」 「へぃ!」 「奴等の散り方と攻め方ぁ教えた通りまず間違ぇ無ぇ筈だ。 まいんち稽古してきたようにな、オレの指図通り寸分の 狂いねぇよう立ち回れぃ!」 「へぃ!」 「まざぁそいつで一気に行くぜ! いいか、ちょいとでも ヘマしぁがったら、てめぇの首ぁ芝草ヶ原に転がってると 思え! それほどの相手なんでぃ、美墨一家ぁな!」 「へぃ!」 |
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「腕っ節に自信満々のなぎ次郎ならぜってぇ真ん中突いてくる! もんでぇはヤツの両脇と東西の両袖だ。特にあのやっけぇな莉奈吉、志穂松、メグ蔵に仕事させなきゃ、こちとらその隙突いて一挙に攻め込める! 稽古してきたのを頭ン中でよぉく思い出すんだぜ、いいな!」 「へぃ!」 「でぇじょうぶだ、オレの指図見逃さねぇでいきゃあ てめぇらに勝ち喧嘩ぁくれてやる!」 「へぃ、親分!」 |
「皆の衆! 刻限にあいなりやした!」 「美墨一家に永沢一家! 本日の喧嘩、立会見届け人はこの逸物村の 新半四郎があい務めさせて戴きやす!」 「斬った張ったの喧嘩道、勝った負けたぁ時の運! 娘ァ泣いても恨み無し! お互ぇどちらさんも宜しゅう御座いやすね?」 「おぅ!」 |
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「よぅし、行くぜ! 野郎共! くたばンじゃねぇぞ!」 「オオーッ!」 「クヘェーッ! 武者震ぇしてきやがるぜ!」 「おぉさ! ゾクゾクすらぁ!」 |
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「こン時を待っちゃいたぜぃ、美墨の!」 「おぉよ! 嬉しくてたまんねぇぜ、永沢の!」 |
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「カミさんに遺書けぇて来たンだろうなぁ? よぉ?」 「てめぇこそ、野花にゃ未練ねぇんだろうなぁ? あぁ?」 |
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「やかましぁい! いくぜ! なぎ次郎!」 「きぁがれ! 勝蔵!」 |
うりゃあー! だぁあー! カィーン! チュィーン! キンッ!キンッ!キンッ! 突っ込めぇーぃ! うおおおおおおーーー! |