( はは・・・めぇったねぇ、どうにも・・・ )

( 昔のひたぁ上手ぇこと言ったもんだぜ。
見ると聞くたぁえれぇ違ぇだ。美墨のなぎ次郎ってゃあ腹さえ減って
なきゃとてつもねぇバケモンみてぇに強ぇ男だったんだが・・・・・
喧嘩場から一歩出りゃあこんな男なのかい? )

( まぁ長々と喋るわ喋るわ・・・・それもてめぇののろけ話だ。
相槌打っちゃあ聞いてやったが、てめぇのまぐえぇ覗かれた
恥っさらしまでするたぁなぁ・・・・恐れ入っちまうぜ、美墨の )

( 雪文の孫ってぇカミさんも確かに別嬪にゃ違ぇねぇが、初めての
客にあんな事まで喋られても笑っちゃいるしなぁ・・・似たモン夫婦
ってヤツかい・・・。
仲のいいこたぁこの上無ぇが、・・・けったいだわなぁ )








「勝蔵親分、どうも申し訳ありやせん・・・
ウチの親分ののろけ話、終ぇんまで聞いて下せぇやして。
嬉しいお客人があると決まってこの長話をしなさるんで、
あっしらぁ聞き飽きてハナから終ぇんまで喋れるくらいでさぁ。
申し訳ねぇこって御座いやす」

「え? おめぇさん達若ぇ衆は何度も聞いてんのかい」

「うっせぇな、志穂松! おめぇらにゃ将来のために聞かせてやってんじゃねぇか。ありがたく思いやがれ」

「へぃへぃ・・・親心ァ身に浸みてやすよ、親分」

( うへぇ・・・なんてぇ一家でぃ。
 これじゃ若ぇ衆にナメられちまいそうじゃねぇか。
 ・・・つくづくめぇっちまうなぁ・・・ )









「驚かれたでしょ、勝蔵親分。ウチのはこういう人なんですよ。初対面の御方にまで全部喋ってしまうんです。それもまぁ
裏表の無い人間だと思って勘弁してやって下さいましな。
オッホッホッ・・・」

「いや、カミさん、お気遣い無用でさぁ。ほんに仲のいい夫婦だと感心しやした。あっしなんざこれから身ィ固めにゃなんねぇんで、手本を見して貰ったようなもんでやすよ」

「あれま、親分はこれからでしたか」

「そうけぇ、永沢の。それじゃあ祝いに行かにゃなんねぇな!」

「いや、そうじゃねぇんで」








「あら、お決まりの方がいなさるんでしょ?」

「ありゃあどうだ、こりゃあどうだと周りァ勧めちゃくれるんでやすがね、どうにも・・・・」

「ほぉ、そいつぁ勿体ねぇ。女からすりゃあおめぇさんみてぇな腕も気っ風も度胸も揃ってる男ぁたまんねぇだろうによ」

「背筋もびしっとなさって男前ですしねぇ。あたしらからすれば夢見に出て来るような人ですよ。そんなにお気に召さない女の人が多いんですか?」

「ハハ・・・カミさん、勘弁して下せぇ。 こいつばかりぁてめぇの性分と好き嫌ぇの話でやすから」
























「そりゃそうだ。好きでもねぇ娘っコ押し付けられてもなぁ。
永沢の、よぉっく解るぜぇ」

「でもおまいさん、こんな恰好いい立派な御方なんですよ。
もう・・・御高倶山の女の人達はなにモタモタしてるんでしょうね。歯痒いじゃありませんか!」

「はっはっはぁー! ベーロォー、おめぇが地団駄踏んでどうすんでぃ」

「御高倶山の女衆がどうのこうのじゃねぇんで。気立てが合やぁ御高倶山の百姓娘だろうが南蛮バテレンの娘だろうがどうでもいいんでさぁ。はっはっ・・・」














「聞きましたよ、勝蔵親分さん! 
そーですか、御高倶山にゃこだわらないんでしょ? 
あたしゃどうですか? あたしゃ!」

「おい、女将ぃ〜、寝惚けたこと言ってんじゃねぇぞ。
聞いてやがったな」

「ええ、ええ、そりゃもう。こんな御方がお一人でいなさるんじゃ、あたしだってじっとしちゃいられませんよぉ。働き者ですよぉ、御高倶山でも屋台商売しますよぉ!」

「おめぇ押し売りするねぃ。薹の立っちまった女将じゃ永沢のが気の毒過ぎらぁ。それによ、おめぇさんにゃあの中尾屋の若旦那がまいんち言い寄ってんじゃねぇか」

「え〜?! 知ってらしたんですかぁ、まいりましたねぇ・・・」








「そうですよ! ね、おまいさん、おひかちゃんなんか丁度釣り合い頃で
いいんじゃありませんか? 勝蔵親分、どうですか、あのコなんか?」

「え? この茶屋のあのコですかい? はっはっ・・・」

「おお、永沢の、歳格好もいいじゃねぇか。どうでぃ?」

「めぇっちまうなぁ、よしねぃ美墨の・・・そんなこと言っちゃあ、あの娘さん
かえぇそうじゃねぇか」

「なに、かまうもんけぇ、なぁおひか。 やい、おひか!
おめぇソラ使ってんじゃねぇやな、こっち向いてみろぃ!」


「・・・・・あ、、あの・・・・」

「わぁははははぁー! なんて顔してやんでぃ。
おめぇも話ィ聞いてたんだろ。まんざらじゃねぇな?」

「あた・・・あた・・・・あたし・・・ですか?」

「おぉよ!おめぇさ。 どうでぇ、永沢親分は? 
おさむれぇみてぇだってさっき言ってたじゃねぇか」

「いえ・・・あの・・・・とてもカッコ良くて・・・その・・・」

「あれまぁ、おひかちゃん可愛い。おまいさん、これはホの字ですよ!」

「カミさんまで・・・もう勘弁して下せぇや。かえぇそうじゃありやせんか」








「すまねぇな、おひかさん。勘弁してやってくんなぃ。おめぇさんが可愛いんでなぎ次郎親分もカミさんも
ちょいとからかいなすっただけでさ」

「いえ・・・あの・・・あたしは・・・・その・・・」

「はっはっ・・・元はと言やぁあっしがつまんねぇこと口走っちまったもんでな、許しとくんなせぇ」

「おいおい、永沢の、オレっちァからかってんじゃねぇよ。真面目な話だぁな。なぁ、おほの」

「そうですよ、勝蔵親分。いいコですよ。こんな商いしてますからね、礼儀も人様を見る目も身に付いて
ますしね。それはいいおかみさんになりますよ。あたしが太鼓判押しますよ」

「はは・・・めぇったなぁ・・・。いい娘さんなのぁ見りゃ分かりまさぁ。町の若ぇ衆は放っちゃおかねぇで
やしょうに」








「それがでやすね、勝蔵親分。おひかぁ初心だもんでやすからね、男と連れ添ってありぃた事もねぇらしいんでさぁ」

「はは・・・そうかい」

「祭ン時だって夜店がありやしょう? でやすからね、男に連れ出して貰えるこたぁねぇんでやすよ。あっしらも太鼓判押しやすぜ、おひかぁ生娘ン中の生娘でさぁ。いいコで御座いやすよ」

「おいおい・・・おめぇさん達までかい。はは・・・」

「こいつぁあっしらン中じゃ妹みてぇなモンでさぁ。勝蔵親分みてぇな立派なお人にお輿入れ出来りゃあ、そいつぁあっしらもたまんねぇ幸せな事でやんすよ」








「おぉ〜えれぇこった! 志穂松がまともなこと言いやがる」

「そうだよ、志穂松、おまえ、いいこと言うじゃないか。
あたしゃ見直したよ〜。もっとお食べな!」

「いやぁー、姐さんに褒めて貰うなぁ久しぶりでやんす」


「なぁ、永沢の、ほんにこいつぁ冗談話じゃねぇんだ。
おひかぁ身寄りがねぇんでよ、ここの女将とオレっち一家が
親代わりみてぇなもんでな、こいつにゃ極上の男と添って
貰いてぇとよ、みんな思っちゃいるのさ。なに、押し売りする
つもりぁ毛頭ねぇ。ちょいとアタマの端っこにでもその事を
置いといちゃあくんねぇかい?」








「なに? そうかい・・・
おひかさん、身寄りのねぇ身だったのかい」

「おぅよ、どこをどうありぃて来たのか気が付きゃ河原だったってんだ。女将の茶屋にフラフラ近寄ったのも腹ァ減ってたんだろうな、かえぇそうによ。桜ぁ満開の頃だったなぁ」

「そうかい・・・・そりゃあ幼ぇうちから苦労しなすったな」

「そうさ、だからよ、唐変木なヨタレもんにゃぜってぇくれる
わけにゃいかねんでぃ。
なぁ、頼まぁ、考ぇてみちゃあくんねぇか?」

「あたしからもお願いしますよ。女の幸せは頼りがいある男に添える事なんです。あのコもああして親分に惹かれてるようですし」








( おいおい、オレぁ近ぇうちにおめぇさんらと喧嘩する
相手なんだぜぇ。 めぇったなぁ・・・なんてぇ衆でぃ。
オレも日頃ぁ口にしねぇようなこと言っちまったもんだ・・・
身ィ固めにゃなんねぇなんてよ・・・
これぁあののろけ話聞かされて能天気毒に憑かれちまったかな。張り詰めたトコのねぇ穏やかってぇのか・・・なごみってぇのか・・・。まったく掴み処のねぇ一家だわなぁ )

( ・・・にしても、可愛いコじゃねぇか。
あんなに頬染めちまってよ。確かに初心なコだわな。
おまけに苦労もしてきたとくりゃあオレらァみてぇな稼業
にゃ引き摺り込みたかねぇわなぁ。
このまんまそっとしときてぇ野花みてぇなコだぜ。
周りン衆が愛しむのも無理ぁねぇ・・・ )

( フ・・・・・美墨の、
おめぇさん、あんげぇいいトコあるじゃねぇかい・・・ )








「おい、見ろよぉ莉奈吉ィ。おひかを見る勝蔵親分をよ」

「ええなぁ・・・優しげでよぉ。ありゃあぜってぇ気に入りなすったんだぜ」

「ンだなぁ」

「よかったなぁ、これで気に留めてて下さりゃひょっとすりゃあひょっとでよぉ、ウチの姐さん以来の輿入れ騒ぎになるかもしんねぇ」

「そうなりゃ御高倶山たぁ喧嘩しねぇようになるんけぇ?」

「ウーン・・・こりゃあ戦国さむれぇが人質出したンたぁ違うからよぉ。どうだかなぁ・・・」








「おひかさん、おめぇさんはえれぇ娘だ。小せぇ頃の不憫な身の上についちゃああっしの知るところじゃねぇが、
おめぇさん今は掛け出したぁいえこうやって立派な商売ぇに身を置きなすってる」

「いえ・・・あの・・・は、はい!」

「そうそう、その顔でぃ。その笑顔に救われたモンも多かろうよ。おめぇさんは辺路寝街道に咲く野辺の花だ。
その笑顔、失くしちゃいけやせんぜ」

「はい・・・! あ、ありがとう御座います」

「それからよ、おめぇさんの事を見守り案じて下すってる人達ァこんなに大勢いなさるんだ。
何かあったら頼りゃあいいし、まざぁこの衆への感謝の気持ちを忘れねぇでいておくんなせぇ。
聞いての通り、先程来このあっしに下すった皆の衆の御言葉ァみぃんなおめぇさんを思ってのこった。
この勝蔵、その暖かなモンに感じ入りやしたぜ。おひかさんはこんなええ人達に包まれていなさるんだ。
ありがてぇと思う心、そいつぁ後生でぇじに持ち続けて下せぇや。それが人の道ってぇモンで御座いやすよ」

「は・・・はい!」








「す、すんげぇ・・・・!」

「聞きしに勝る名親分だでやぁ。
先代の弓五郎親分もそりゃあえれぇお人だったけんどよ、
あのひたぁそいつに輪ァ掛けて品ってぇモンがあらぁな」

「なんだかよぉ、あのホクロが神々しかねぇかぁ?」

「見ろよ、おひかのヤツぁカチコチになってやがるけんど、
目ぇ潤ましちまってよぉ」

「無理もねぇやな。あんなありがてぇ事言って貰ったこたぁ
ねぇんだからよ」








「美墨の、おめぇさん方皆の衆がこのコによせる思いは
よおっくわかったぜ。でぇじにしてやってくんなぃ」

「おめぇさんにそう言って貰やぁこれ以上のこたぁねぇ。
あいつも面と向かってあんなありがてぇ事説いて貰ったなぁ
初めてだろうからよ、すまねぇな、ありがとよ」

「なんの、こっちこそこんな珍しい旨ぇモンを喰わしち貰ってよ、おまけにこんな長居しちまった。申し訳ねぇ。けどよ、はるばる辺路寝湊まで来た甲斐があったってぇモンよ。
おめぇさんに会えてよかったぜ」

「そりゃオレもだ、永沢の」

「それじゃぼちぼち引き上げるとすらぁ」








「ホントにこんな事しか出来ませんで、すみませんでしたね。泊まってって下さればと思うんですけど、組内の皆さんのこともおありでしょうし・・・・」

「さいでやす。今日中にゃけぇるからと言い残してきやしたんでこれで失礼しやす。ごっつぁんで御座いやした」

「あ、そうそう、ちょっとお待ちになって下さいましな。今包んで貰いますから若い衆にも味見して貰って下さいまし」

「そいつぁかたじけねぇ。ウチのヒョーロクダマ共ぁシノギもまともに上げられねぇに食い意地だけぁ張ってやすんで喜びまさぁ」

「はいそれじゃ、えーっと・・・・・あれ、女将さんは?」








「裏手じゃねぇですかい? さっき中尾屋の若旦那がちらっと顔見せてやしたからね。また口説きに来やしたんでやしょ」

「女将のヤツ、あれでけっこう喜んでんじゃねぇのかい。しょうがねぇなぁ、オレが呼んでくらぁ」

「おまいさん、あたしが行きますよ」

「いや、オレが行ってくる」

「おまいさん、覗きはいけませんよ!」

「グッ・・・・・」












「なぁアカネ、今日こそ色よい返事聞かせておくれよ」

「若旦那のお気持ちは嬉しいんですけど・・・・」

「おまえだっていつまでも屋台じゃ仕方ないだろ? おまえのために店一軒建てるつもりなんだよ。おっ母さんのことは私がきっと説き伏せるから・・・なっ、なっ!」

「うーん・・・・分かりました、考えてみますよ。けど・・・
今仕入れに困ってンですよ。湊に上がりたてのタコ・・・
毎日安くまわせませんかねぇ・・・」

「ああ、いいさ! おまえのためだ。手配しよう」

「粉も値上がりがひどいんですよぉ」

「おまえに苦労はさせられないよ。それも任せておくれ」








「あちゃぁー、なんでぇありゃあ? あれじゃあよ、
あの馬鹿旦那ァ気の毒過ぎねぇけぇ?」

「いいえ、おまいさん。女一人、商いで身を立てるにはあれくらいでないといけないんですよ、きっと」

「いつもあんなお話してますよ。そのうちあたしにも商いのイロハ教えてあげるって・・・」

「おめぇあれぁ習わねぇでいいと思うぞぉ」





















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第七幕  野辺の花


      
      恨み辛みぁ御座いやせんが 避けちゃ通れぬ勝負の掟  道具のダンビラぁ振り回し ケリをつけるが男の意気地