「そんな事あったもんでよ、なんっつうか・・・他人にゃ思えなくなっちまってよ。
それからぁ毎日一緒にいたなぁ」

「堅気の職に就いてるんじゃないんですけどね、
こんな好き放題にしてる人初めてでしたし、よく見たらけっこうイイ男だし、
護ってくれそうだから安心して付いて行けましたし・・・・
あれま、やですよ、ウフフ・・・」








「なんだかよぉ、てめぇの面ァやたらと気になったりしてよ。
こいつぁ惚れちまったのかもしんねぇと思ったら、余計一緒にいたくなってよ」

「結構なこンだなぁ」

「あたしも包丁を持つ日が多くなりましてね。
『お前の飯は旨い!』と言って貰いたかったんでしょうねぇ」








「二人きりになれる場所が欲しくて山歩きしたりよ」

「そいつぁ山へ逃げた女連れの凶状持ちみてぇだな、はっはは・・・」

「ウチの蔵の中で寝てしまった事もありましたよ」

「そりゃあそりゃあ・・・・御馳走さんでごぜぇやす」








「ある日、こいつの婆さんが湯治場へ出掛けるんで若ぇ娘一人になるからってんで頼まれてよ。
その晩こいつんトコへ行ったのよ」

「はいそうでしたね・・・・・ポッ・・・・」

「ありゃあ婆さんに仕組まれちまったのかもしんねぇ」

「そうかい。とうとうめでてぇ事になっちまったんだな?」














「いやぁ、なんっつうかかんつうか! 
ま、そういう事になっちまったのよ」

「やですよ、おまいさん。あたしゃ恥ずかしいよ」

「とにもかくにも、おめでとう御座ぇやす」

「いや、永沢の、
それがよ、あんまりめでたかぁなかったんでぃ」

「ほう・・・?」








「暫く経ちましてね、お夏ちゃんとお京ちゃんが・・・・」


「おほのちゃん、あんた中川一家のなぎ次郎さんと毎日一緒にいるよね?」

「え? ええ・・・と、まぁ・・・楽しい人だし・・・。そ、それがどうかしたの?」

「あんた・・・、
なぎ次郎さんともうデキちゃってんでしょ!」


「ええ!?」

「嘘付いても駄目だよ。さあ白状しなさい。
デキてるよね?!」


「な、なに馬鹿なこと言ってんの!
そんな訳ないでしょ・・・」












「みぃ〜たぁ〜のぉ〜よぉ〜!」










「えーーっ!?」
「ホントにもう、心の臓がとまりそうでしたよ。
あの晩あたしが一人じゃ可哀想だからと来てくれたらしいんですよ」

「プッ・・・あ、いや失礼しやした。そりゃそんなトコ押さえられたんじゃあ言い逃れァ出来ねぇわなぁ。
クククッ・・・あーっはははははあぁー!」

「まったくよぉ、穴がありゃあへぇりたかったぜ。情け無くってよぉ、永沢の」

「い、いや、申し訳ねぇ。勘弁してくんな。あーっはははははあぁー!」











「あのコ達はそれでなくても噂話が好きなんですよ。これじゃアッという間に広がってしまいそうで、もう恥ずかしくって恥ずかしくって、死んじゃいたいと思いましたよ」

「えれぇトコ見られちまったもんだぜ。これじゃ夜這いで火事に遭ったも同じさや」

「もう町も歩けないと思いましてね」

「オレぁどうでもいいけどよ、
こいつがかえぇそうでよぉ」








「こいつぁオレの女房だ文句あんのかってぇ言っちめやぁ世話ぁねんだけどよ、
考ぇてみりゃあよ、こちとら半端な極道モンでこいつぁ大店の後継ぎなんだよな。
婿貰わにゃなんねぇんだ。ほとほと弱っちまってよ」

「どうしよう、どうしようってこの人に言ったんですけどね、
う〜ん・・・・なんて唸るばかりで生返事しかしてくれないんですよ」

「そりゃえれぇ事だったな。人様の口にゃぁ戸は立てられねぇしな・・・」















「そーっと茶屋へ様子見に行ったのよ。そしたらよ・・・」

「あれまぁ、お二人さん! 聞いたよ聞いたよぉ! 
デキちゃってんですって?」


「お、女将! な、な、な、なんでそんな事・・・!」


「あれぇ? 旬の噂ですよ、なぎ次郎さん。
おほのさんもよかったですねぇ。めでたいめでたい!」









「なぎ次郎さん、弓五郎親分の辺路寝一家継ぐんでしょ? 
もっぱらの評判ですよ。それじゃおほのさんは若い衆の
姐さんじゃないですかぁ」


「い、いや・・・そりゃあありがてぇ話だけどよ・・・そんな容易な事じゃぁ・・・・なァ、おほの?」

「・・・・・・・」

「そっかぁ、おほのさんは雪城屋の一人娘でしたねぇ。
そっかぁ・・・。よし! なら二人して逃げちゃいなさいな! 
多かないけど用立ててさしあげますよ」


「ちょ、ちょっと待てよ! 女将、早まるな!」















「やい! このアマっ娘共! ヒトの寝所ォ覗きぁがって、ありもしねぇことベラベラ吹いて回ってんじゃねぇぞ、このヤローッ!」

「ね! 二人して来たでしょう。ねー!」

「な、な、なんでぃ!」

「なるほどねぇ、イイ男じゃない、おほのちゃん」

「・・・お、お願い、忘れて! 
これ以上みんなに喋らないで!」


「あれぇ、何で? 一緒になるんでしょ? 
おめでたいことじゃない」


「い、いや、そりゃおめぇ・・・・」








「おほのちゃん、勘違いしないでよ。
あたしらいつでもあんたの味方なんだからぁ。ねー!  
で? いつ一緒になんの?」


「それは・・・・・あの・・・」

「なぎ次郎さん!」

「へぇ」

「あんたまさかこのコ弄んでんじゃないでしょうね」

「そ、そんなことあるけぇ・・・なぁ・・・おほの」

「・・・・・」








「やっぱり・・・! 案じてた通り、煮え切らないね」

「おめぇらにゃ関わりねぇこったぃ。それよりなぁ・・・!」

「おほのちゃんが可哀想じゃない。さぁ、ここではっきり
して貰いますよ、なぎ次郎さん!」


「何をエラソーに! 聞いてりゃおめぇ達ぁ・・・!」

「いいんだよ、きのうから瓦版屋の咲兵衛さんが
あたしらンとこへ来てるしね。天下の雪城屋と街道一の
一家が一緒になるのか?ってもう大変よ!
事と次第によっちゃあそっちへ流れちゃうかも。
ねー!」


「な、なんだとぉ・・・!」

「お願い! そんなことやめて・・・!」








「そうそう、枕絵師のおじさんも来てたよね。詳しい話聞かせてくれって。すんごくやらしい目付きしてさぁ。
美翔舞斎っていったかな? 名高いらしいよ」


「ま、ま、まくらえしぃ〜!?」

「あんなことやこんなことや、どうやってああやって・・・・・、寝所での一部始終を事細かく教えてくれたら三両だって」

「い、い、いちぶしじゅうだぁ〜!?」

「あ、ああ・・・ひどい・・・・! そんな・・・・!」

「わかった? なぎ次郎さん。おほのちゃん助けたかったら近いうちにはっきりしてよね!」

「ま、待て! てめぇら、どこがおほのの味方なんでぃ!」


「きょうびの娘っコは怖ぇぜぇ、永沢の。 おほのをカタにオレを脅しぁがったんでぃ」

「あの時はもう駄目だ、崖の端から海へ跳ぼうと思いましたよ。でもあのコ達はあたしの事を案じてなんとかしようとあんな事まで言ってくれたんですね」

「せつねぇ話でやすね」
















( あたし、どうしよう・・・もうこの町にいられない・・・
 こんな事になるなんて・・・ )


( なぎ次郎さん・・・・・・ )




「おほのや・・・どうしたんだい? 
・・・町の噂を気にしてるのかい?」


「婆様・・・・・!」








「・・・おほのはどうしたいんだい・・・?」

「え・・・?」

「今自分がどうしたいか・・・それが一番大事なんじゃないかい?」

「・・・・・・」

「ウチの事などどうだっていいじゃないですか。おほのが失くしたくないものは何なのか・・・それだけ考えればいいんじゃないかねぇ?」

「なぎ次郎さん・・・っていいましたかね、あの人。 おほのはあの人とお付き合いするようになってから随分変わりましたよ。前よりずっと明るくなった。
ずっといいお顔になりましたよ」








「好きなんでしょ? あの人を・・・」

「・・・・・・・はい」

「そうかい、そうかい・・・ならいいじゃありませんか。
そうかい、そうかい・・・」




「婆様・・・・・・!」


「いい話でやすねぇ・・・カミさん。 それにしても出来たお婆様じゃありやせんか」

「大旦那の雪城文左衛門が死んだあたぁ、あの婆さん一人でずうっと仕切ってきたからな。こいつの婆さんはそりゃあてぇしたキレもんだ。女にしとくにゃ勿体ねぇ。男に生まれてりゃあ今頃ぁてぇへんな大親分よ」

「え? あの雪文かい? こいつぁおでれぇた。カミさんはあの雪文のお孫さんでやしたか」















「オラぁよぉ・・・噂が親分の耳に届いちまってな。
めぇったぜ・・・」


「やい!なぎ次郎! てめぇ堅気の娘っコにちょっかい
出してやがんだってなァ。ちょっとこっち来い!」


「へ、ヘェ・・・」 (うぇ、まじぃなぁ、これァ・・・)

「めぇにおめぇが助けたあの雪城屋の娘ってぇ話だが、
そうなのけぇ?」


「ヘェ・・・まぁ・・・」

「で、どうなんでぃ?」

「はぁ?」








「はぁじゃねぇ! 
股ぐらのダンビラぁ鞘抜いちまったのかと訊いてんだ!
この野郎ォ!」
  ボカッ! ボカッ!

「ぅぐぁっ! い、いや、まぁその・・・ハハ・・・」

「てめぇ馬鹿野郎! いってぇどういう了見でぇ! 
助けた娘っコ傷モンにしぁがって!」
  ボカッ! 
ボカッ! ボカッ!


「ひぃぃ! ま、待っとくんなせぇ親分、
そ、そんなんじゃねぇんで・・・!」








「やかましいやぃ! オラァな、跡目をてめぇに
決めたってんでたった今こいつらに言い聞かせた
とこなんでぇ! それをてめぇコケにしぁがって!」

ボカッ! ボカッ!
 ボカッ! ボカッ! ボカッ!

「てめぇが助けた娘をてめぇでモノにしちまったんだ。
あたぁ知らねぇなんてことぬかしてみやがれ!
このオレがてめぇの素ッ首叩っ斬るぞ! 
この野郎!」 ボカッ! ボカッ! ボカッ!

「ぅぐぁっ! ぎぇっ! ごぁっ!」








「ちょいと殴りすぎたな、勘弁しろや、なぎ次郎。 
けどなぁ、おめぇ、相手がわりぃやな。
日の本一の大店の婿取り娘だぜぇ」


「ヘェ・・・」

「足洗うしかねぇだろう。雪城屋の一人娘がどう考ぇ
たってこの稼業にへぇって来れる目は無ぇんだ。
わりぃこたぁ言わねぇ、
堅気ンなって一から商ぇ習いするこった」


「お、親分・・・あっしゃぁ・・・」

「おめぇを無くすなぁ痛ぇさ。おめぇに商ぇの才がある
たぁ思えねぇしな。けどよ、惚れてんだろ ? 
いいコじゃねぇか、幸せにしてやんなぃ。堅気さんでも
男ぁ男なんだぜ。明日の朝、盃けぇしに来い。
おめぇの門出だ、餞別くれてやる」







(まったくオレってやつぁ・・・なんてぇ間抜けなんでぃ・・・親分の気も知らねぇで・・・)


「えれぇことになっちまったのよ。いってぇどうすりゃあいいんでぃ。親分にぶん殴られた痕がじんじん疼いてよ」

「弓五郎親分も身を切る思いで言いなすったんだろうよ。美墨の、そいつぁ親分の方が辛ぇぜ。我が子みてぇな跡目を自分の手で切らにゃなんなかったんだからな」

「そうなんだよな、それによ、どう考ぇたって一家をおん出されたてめぇの姿なんぞ思い浮かべやしねぇんだ。オラぁ生きてくとかぁこの一家しかねぇんだと思い知らされてよ。じゃあ、おほのに手ぇ付けたまんま棄てられるのかってぇ事ンなるとよ、ンなこたぁ出来っこねぇんだよ」








「あんちくしょうの顔が目のめぇに広がってよ・・・・クソったれめ、オレの方見て笑ってやんだ。たまんなく泣けてきちまってよぉ・・・」








「オレァ・・・オレァ・・・! オレァ・・・美墨のなぎ次郎でぃ! 文句あんのかァ! 
このやろーーっ! ちっくしょおおおおーー!」

「おほのぉーっ! おほのぉぉぉーーーーっ!」









「おほのぉー! おめぇがいなけりゃ駄目なんだよぉ! オラァ、一家をおん出されたかねぇよぉ!」

「は・・・はい?」

「おほの、頼む! オレと一緒になってくれ! 
辺路寝一家ぁ継ぐオレの女房になってくれ! 
頼む、おほのぉ!」


「・・・・・・・・・はい・・・お頼申します、なぎ次郎さん」

「え?」

「あたしをなぎ次郎親分の女房にして下さい」








「ほ、ほんとか?! ほんとにいいのか? 
雪城屋を継げねぇんだぜ」


「はい・・・!」

「か・・・か、堅気の稼業じゃねぇんだぜ」

「はい! おまいさん!」

「え? え? 今なんてった?
もいっぺん言ってくれ」


「おまいさん!」

「おおおおー! 
もいっぺん、もいっぺん言ってくれ!」









「おまいさん! おまいさん!」

「もいっぺん、もいっぺん、もっとだ、もっと言ってくれ!」

「おまいさん! おまいさん!おまいさん! おまいさん! おまいさん! おまいさん!」

「おほのぉーーーー!」

「おまいさん!」



「そうけぇ・・・泣けてくるよな話じゃあねぇか、美墨の」

「恥ずかしいですよぉ、勝蔵親分」
















「あたぁお定まり通りさ、年寄り連中があれやこれやで、あっという間に結納さぁ。
歌舞伎野郎の一件以来こいつの婆さんも弓五郎親分のお人柄をよっく知ってる
もんでよ、あの二人の話ァ早ぇのなんの・・・」

「弓五郎親分も喜んでくれたんじゃねぇかい?」

「もう心残りぁねぇって言ってくれてよ、そりゃあ嬉しそうに身を退きなすった。 
で、辺路寝一家・美墨のなぎ次郎を襲名でぃ」








「祝言はほんの身内だけでやったんだけどよ、ここの女将も来ちゃあ祝ってくれてよぉ」

「ささやかでしたけどね、嬉しかったですよ」

「そうかい、美墨親分とそのおかみさんが殆ど同時に生まれたわけだな。そいつぁよござんした」










「やれやれ・・・やっと終わったみてぇだ」

「勝蔵親分もようく御辛抱なすった。気の短ぇモンだったら
とうに飯台ひっくりけぇしてるぜぇ。えれぇお人だ」

「まぁいつもいつもおんなじ昔話をよぉ、
のろけもてぇげぇにして貰いてぇやぃ」

「姐さんも一緒ンなっちゃ喜んでなさるからいけねんでぃ」

「それだけ惚れ合ってるって事かもしんねぇけんどよ」

「勝蔵親分、呆れけぇってんじゃねえかぁ?」
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第六幕  苦境


      
      恨み辛みぁ御座いやせんが 避けちゃ通れぬ勝負の掟  道具のダンビラぁ振り回し ケリをつけるが男の意気地