( さすがに辺路寝湊だぜ、間口から見ても大層な屋敷じゃねぇか・・・・・ )

( そういうこのオレ様も世に聞こえた御高倶山を預かる身。遠い昔からの敵同士たぁいえ、スジってモンは
通しとかにゃなんねぇからな。面白かぁねぇが世間様に顔を売ったなぁ向こうが先だ、ここは大一番の前に
“義”ってのを見せとこうじゃねぇか )







( もう出て来てもよさそうなんだがな・・・・・おっ! 来た! あれだ、間違ぇねぇ! )

( うへぇ! なんでぇありゃあ? 真っ昼間から酔っ払ってるよな呆けぶりじゃねぇか )

( 若ぇ頃に喧嘩場で見たのたぁえれぇ違ぇだ。ありゃあホントに美墨のなぎ次郎かい・・・?)








「御免なすって・・・。辺路寝湊のなぎ次郎親分とお見受け
致しやす」

「ん? ああ、オレぁなぎ次郎だが・・・おめぇさん、誰でぃ?」

「お初にお目に掛かりやす。永沢の勝蔵と申すモンで
ごぜぇやす」








「ええっ?! 永沢の・・・! こ、このホクロは・・・お、親分、このひたぁ・・・!」

「泣きボクロの勝蔵親分! 親分、この御方ぁ御高倶山の親分さんでやすぜ!」








「ほぉ〜・・・そうけぇ、おめぇさんが永沢の勝蔵さんけぇ。
そうけぇ、そうだったのけぇ。いや、そりゃあ失礼しやした。
まぎれもねぇこのあっしが美墨のなぎ次郎でごぜぇやす」








「お互ぇ何の恨みも御座いやせんが積年の勝負事、ましてや天下に名だたる美墨一家との
避けられねぇ大喧嘩。一家を預かっても駆け出しのあっしらたぁ格の違うなぎ次郎親分に、
まざぁ挨拶だけでもさして貰いてぇものと、ここで待たせて戴きやした」

「そりゃあ御丁寧な御挨拶。音にきけぇた御高倶山の大親分にゃあっしも一度会うてみてぇと
思ってたところでさぁ。いや、このなぎ次郎、めぇりやした。はるばる出向いて下すった仁義のお心遣ぇ、
こりゃあ喧嘩めぇに借りを作っちまったも同じでやす」

「とんでもねぇ。泣く子も黙る美墨一家を相手にし、正面切った喧嘩沙汰たぁ人も羨む有り難さ。
こうしてなぎ次郎親分に挨拶ぁ出来るこの勝蔵、幸せモンでごぜぇやしょう」

「ほえぇ〜、噂にゃ聞いてたが、立派な親分さんだでやぁ、なぁ莉奈吉」

「そうともよ。志穂松、よっく拝んどくんだぜ。オレっちの親分たぁえれぇ違ぇだ」

「うっせぇ! だぁってろぃ、この野郎共!」








「美墨の、足を止めて貰ってかたじけねぇ。喧嘩場での
手合わせを楽しみにしておりやすぜ。
じゃぁ今日ンところはこれで・・・御免なすって」

「あ・・・ああ・・・」








「ちょ、ちょ、ちょっと待ちねぇ、永沢の!」

「へ・・・・? 何か?」




「なぁ永沢の、この先ぁ堅ぇ話ぁ抜きにしてよ、ちょいと付き合っちゃあくんねぇかい?」

「ほぅ・・・」

「御高倶山の大親分がはるばる出向いてくれたってのによ、茶のいっぺぇも出さねぇで
けぇって貰ったんじゃあ、このなぎ次郎、世間の笑いモンだぁな。その向こうに旨ぇ団子を
喰わせる屋台茶屋があんのさ。おめぇさん団子は嫌ぇかい?」

「ほぅ・・・そりゃまぁ有り難ぇお誘いだが・・・団子・・・かい?」

「なに、ありてぇに言やぁ焼き団子なんだが、とにかく喰ってみて損はさせねぇ。
なぁ、いいだろ? ちっとぐれぇ・・・」

「まぁ、それじゃ・・・・・・せっかくの誘いだ」
















「ほぉ〜、変わった看板だな。キリシタンバテレンかい?」

「いやいや、女将の興さな。家みてぇなこのでけぇ屋台
引き摺ってよ、まいんちここで商ぇしてやんだ」


「確かに見たこともねぇでけぇ屋台だ。祭の山車みてぇだ。
あの看板にゃあいってぇ何とけぇてあるんで?」

「おおかた、『団子ありやす』ってなことだろうよ」





















「あ、親分、今日はお早いじゃありませんか」

「おぅ! おひか、またちょいと寄らして貰うぜ」

「いつもの場所、空けてありますよ。
お連れさんも、ささ、どうぞ!」








「・・・それでよ、そーっとけぇったぁいいが、ちょいと覗くとよ
カカァの奴、薄暗ぇ中でよ、包丁磨いでんだぜ。背筋ぁ凍る
ってなぁこのこったぃ! オラぁ肝ォ潰しちまってよ」

「そりゃまぁしょうがねぇわな、おめぇがわりぃんじゃねぇか。
で、どうしたよ?」

「またそぉーっと外へ逃げてよ、ほとぼり冷めるンまで
こいつンちでひと晩厄介になろうってんで夜道を行ったのよ」

「なんだ、そいじゃおめぇゆうべはカカァ怖くってこいつンちで
泊まったのけぇ?」

「ところがそうじゃねぇんで! 
この馬鹿野郎めも、てめぇンちの軒下で震えてやがったんでぃ」








「やれやれ・・・ろくな話してないねぇ」

「女将さん! なぎ次郎親分が来てますよ」

「おや、そうかい。今日は早いねぇ」

「見たこと無いお連れさんと一緒ですよ。
きちんとした恰好いい人」

「へぇー、珍しい。どれどれ・・・」








「これは親分、毎度ごひいきにして戴いて」

「おぅ女将! 今日はな、御高倶山の勝蔵親分に
おめぇさんの焼き団子を食って貰いたくってよ」

「まぁ、この御方があの御高倶山の親分さん! 
それは遠いところからおいで下さいまして」








「勝蔵親分さん、あとで一筆お願いしますよ。あ、できましたら『たこかへさん江』ってのも小さく
入れといて下さいましな」

「ヘェ・・・そりゃよござんすが・・・あっしの字なんぞいってぇどうなさるんで?」

「ここいらへ貼っとくんですよ。ほれ、なぎ次郎親分のと並べておきゃ、
おっかなくって食い逃げもできゃしませんでしょ?」

「はぁ、この勝蔵の字を護符代わりに使って下さるんですかい。女商ぇながらてぇした気っ風だ。
・・・おみそれ致しやした」








「御高倶山も今宵限りぃ〜・・・可愛い子分のおめぇ達とも今月今夜のこの月をぉ〜」

「お、おい女将、違う違う! そいつぁ赤城の山じゃねぇか。なんだか別の話も混じってるしよぉ」
















「すまねぇなぁ、永沢の。いい女将なんだが、ひょうきんでよ。ささ、遠慮無くやってくんな! 
今に団子も焼けるからよ。あ、こいつぁね、ウチのカカアでおほのってんだ。おい、勝蔵親分に
挨拶しろぃ」

「おほのと申します。すみませんねぇ、遠いところから来て戴いたのに何のお持てなしも
出来ませんで。分かっていれば一席御用意しましたものを」

「滅相も御座いやせん。あっしの方こそ手ぶらでめぇりやしたんで、申し訳ねぇこってやす」








「はいはい、お待ちどう様でしたね。いつものが焼けましたよ」

「やい、おひか、おめぇ今日は一段と可愛いじゃねぇか。
勝蔵親分が男前だんでそこらじゅう弄り直して来たのけぇ?」

「やですよ、親分。 あ、こちらがあの御高倶山の親分さん
ですってね。ハァ・・・あの・・・か、カッコいい御方ですよね、
どこかのお武家さんかと思っちゃいました。一家の親分さん
っていうとなぎ次郎親分みたいな人ばっかりかなって・・・」








「なんでぇ、勝蔵親分がおさむれぇなら
オラァ何に見えるんでぃ?」

「ん〜・・・・いつも寄ってくれる駕籠屋のおじさん達
みたいかな・・・アハハ!」

「ケッ! とんでもねぇ事ほざきぁがるアマっ娘でぃ! 
このオレにフンドシ一丁で駕籠担げってのか?」








「いや、おひかさんとやら、冷やかしァよしてくんな。あっしもただの極道モンでやすよ」

「ええんでがすよ勝蔵親分、ウチの親分はみんなにそう思われてんでやすから」

「なんだとこの野郎、やい志穂松! もいっぺんぬかしてみろぃ!」








「まあまあ、美墨の、そう膨れねぇで。親分ってなぁその通り一家の親にゃ違ぇねぇが、親しみと
分別ある人間ってぇ意味もあるらしいじゃあねぇか。おめぇさんはそれを地で備え持ってるってぇ
事だろう。てぇしたもんじゃねぇか。とてもオレらぁ、真似するったってぇ出来るもんじゃねぇ」

「そ、そうけぇ? ハハ・・・ま、まぁ・・・ハハ・・・。ささ、喰ってくんねぇ!」








「聞いたけぇ、志穂松よぉ。やっぱりさすがは御高倶山の
親分だぜ、学があらぁな」

「ほーだよなぁ・・・、えれぇもんだ。
こんなひたぁ辺路寝湊にゃいねぇもんな」

「さりげねぇよなァ。なんだか姐さんが親分をあやし付ける
みてぇによぉ・・・」

「まったくだぜ、オイラもそう思ったぜ」








「ん・・・ん・・・、こいつぁ旨ぇモンだ!  ん・・・こりゃあ旨ぇ!








「お口に合いますか? そりゃよござんした、沢山召し上がってって下さいましな。
あとで包んで貰いますから組の若い衆にも分けてあげて下さいまし。ウチの人は
毎日ここへ寄るんですよ」

「お二人揃ってよく来なさるんで?」

「ええ、ええ、そりゃもう、あたしもね、病み付きになってしまいましてね」









「いや、なぁに、オレッちが一緒ンなるめぇから通っててよぉ」

「そうかい。それじゃあこの茶屋たぁなげぇ付き合いなんだな」

「そうともよ、永沢の! 
カカアと知り合って最初に連れてきたのもここよ」

「ほ〜、そりゃまた縁の店じゃねぇか」









「おい、やべぇぜ。またあののろけ話始めちまいそうだ。
たまんねぇぜ。
御高倶山の親分さんが客人でいなさるんじゃ、逃げるに
逃げられねぇしよ」

「あれを喋りたがるんだよな、めぇっちまうよなぁ。
耳にタコが出来てらぁ! 
あんなモン誰も聞きたかぁねぇんだよ!」

「しっ・・・! 
聞こえたらまた蛇踊りの技で締め上げられンぞ・・・
知らんぷりして喰え、喰え!」

「お、おお、そうだな・・・喰うべえ、喰うべえ!」



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第三幕  両雄

      
      恨み辛みぁ御座いやせんが 避けちゃ通れぬ勝負の掟  道具のダンビラぁ振り回し ケリをつけるが男の意気地