毎年、瀬戸内から四国方面に一度は遊びに出掛けるので、見たことあるような瀬戸内の風景がたまらなくいい。 この作品を劇場へ見に行きたかったが機会を逃してしまった。 TVで放送してくれたのは大変ありがたい。 トトロを想い出させる物語でもある。 しかしジブリと違い、少女が亡き父への謝罪と悔恨の情を抱いているのが写実的な絵柄によって浮き立たせられているかに思える。 ももは6年生で、もう手も足も長く、小さな幼女風には描かれていない。 その年齢の少女は同年期少年よりも比較的発育が早く、大人びる。 それ故にこの子が背負っているものへの心情が実にリアルに迫ってくる。 葬儀の後、父の引き出しから愛娘である自分への書きかけ手紙を見つけるシーンにはもらい泣きを禁じ得ない。 自らひと皮剥いて一歩踏み出す成長が妖怪達の食料調達であったり高飛び込みであったり、やがては母の心情を酌み取るまでになる。
ファンタジックではあるものの、際立つ三匹の妖怪キャラにともすれば情が移ってしまいそうだ。 I.Gアニメの山寺宏一と聞けば即座にトグサを思い浮かべてしまうのだが、ものぐさでちょいとやさぐれた屁こき妖怪・カワもいい味だ。 このキャラにはまったくハマり役でないかというのが巨漢妖怪・イワの西田敏行。 この俳優独特の狼狽えた喋りの可笑しさをここでも存分に見ることが出来る。 この妖怪は常に厳つい大口を開けていてそれを閉じる場面は殆ど無いのに、愛嬌あって子供のように可愛らしくさえある。 憎めぬ 「いい奴」 であるのが主人公の役に立って助けてもくれようと思わせ、コミカルな中に安心感を与えてくれる。 まるで単純な人の良い近所のおじさんである。
死んだ者はどうなるのか、その魂や生前の思いはどこを漂い歩くのかといった日本の宗教観や死生観、更には恵みをもたらす自然への崇敬が表れている。 祭に藁船を作って奉納し、海へと流すのもそうだ。 コンクリートとアスファルトに囲まれた日常を過ごす者には縁遠い風習かもしれない。 大型スーパーもコンビニもなく、ケータイも持たぬ子供達が何に興じるかと言えば橋の上からの飛び込みで、メールの歩き打ちやネットゲームなど無縁だ。 但し、こういった子供達の情景が今世に実際見られるとしても、それはかなり希少な環境でしかないだろう。 瀬戸内は穏やかな気候で保養所もけっこう点在する地域。 昔、中国の人がやってきて 「なんと、日本にもこんな大河があったのですか」 なんて驚いたという話も聞く。 大陸の人間が大河と見間違えても仕方がない。 行けば必ず立ち寄る居酒屋が四国の松山市にある。 そこのオヤジの話によれば、愛媛という所は滅多に台風が来ない地域だそうだ。 言われてみれば西日本で台風被害に遭うのは九州や高知、徳島、紀伊半島。 四国の場合は東西に連なる四国山地が気象の壁になる。 反面、南からの湿った大気は山に当たって降り注ぎ、殆どが高知側に流れ落ちる。 よって瀬戸内の愛媛は水不足になりがちらしい。 これまた聞いて然りな話。 この作品のクライマックスは台風の最中に母を助けるべく主人公・ももと妖怪達が大活劇を演じる。 この風光明媚で穏やかな地域であるからこそ嵐のインパクトも強い。
それにしてもリアル。 ロケハンはどこの辺りか知らないが、夏場に瀬戸内へ行きたいものだ。 段々畑の雨水集水の仕方や小島らしい港の様子など、ニヤリとさせられる。 深い山奥でなくとも妖怪連中にはかようなところでも出会えよう、そう思わせる製作の上手さに感服仕る。 好きな作品がまたひとつ増えてしまった。