記事一覧

親切な若夫婦

 清水と言えば 「ちびまる子ちゃん」 なんて答える人がいて、ちょいと膝が折れたりする。 清水と言えば次郎長だろうが、の我が身なれば、どっかに資料館ぐらいあるだろうと思い、朝の9時頃から港の辺りをウロウロしていた。
 若い御夫妻が散歩していたので、失礼ながらクルマから降りずに車窓から尋ねてみた。 あの辺りに生家があって、こうこう行けばそれらしい展示物のあるトコがありますよと教えてくれた。 ただ、10時にならないと開かないですよ、とも。

 それじゃあオイラのクルマは反対向きですね、もちっと先へ行けばターンできる広い場所もあるでしょう、どうもありがとう御座います、向こうへ行って向きを変えてきますワ、と挨拶して150mほど先へ進んだ。
 お、ここならいいな、そこへケツ突っ込んで方向転換しようとバックさせていたら、「待って、待って、待って下さい!」 と叫びながら先程の奥様が懸命に走ってくる。 な、なんだ! あの追っ掛けてくる様は尋常でないぞ。


 私の車まで走り着いた奥様は前屈みで両膝に手を置き、凄くゼイゼイ呼吸しながら息を整えようとしている。 なんだ、おい、オイラぁとんでもない失礼なことでも言っちゃったのかい? そんな筈ぁないけどなぁ・・・・。 驚きと当惑、ちょっぴりの不安。

 「あの、ハァハァ・・・あの、想い出しまして、ハァハァ・・・・」 

   「な、なんですか?」

 「そのまま真っ直ぐ行って、ハァハァ・・・こうこうした所にお寺があるんです、ハァハァ・・・」

   「は、はぁ? それで・・・?」

 「お墓もあって、そこにもゆかりの品、色々置いてますので、そこはもう開いてる筈で・・・・」

   「え? それを教えてくれるために走って下すったんですかぃ!」

 見れば旦那さんが後から小走りに近付いてくる。 おーい、間に合ったのかぁ、などと言いながら。

 なんちゅう親切な御夫妻なんだと朝から感激してしまい、丁寧にお礼申し上げた次第。 おかげでその日は寝るまで爽やかな気分でいられた。 いやぁ日本人ってなぁええなあ・・・・などと、改めて 「オ・モ・テ・ナ・シ」 精神に万歳。
 まずそのような人もいないだろうけれど、面倒臭いヤツだな向こうの方へ行ってもういっぺん訊いてみろ、なんて言われた日には、なんだよここらの連中は、としか思わない。

 臨済宗妙心寺派の梅蔭禅寺とある。 次郎長菩提寺の禅寺だ。 横に次郎長遺物館があり、受付が次郎長グッズの土産物売店になっていて、順路に従って遺物館に入れば、次郎長の使った博打道具や喧嘩頭巾など興味深い品が展示されている。 次郎長墓石の横には並んで石松、大政、小政などがあり、反対側にはお蝶さんのが三代、三塔並んでいる。
 弁天さんのお堂があって、お蝶弁天とある。 バチが当たるかなと思いながらも中を覗かせて貰えば、なるほどお蝶弁天も三人分おわしまする。 それがまた艶っぽく並んでおられ、真っ昼間から弁天さんのおみ脚と乳房に欲情したのでは御利益なんぞ夢のまた夢だわなと、苦笑いも出る。

 帰りしな売店で幾つか買ってきた。 小松園の “萌えお蝶紅茶" があって、パッケージの絵が気に入った。 やるではないか小松園。 このお蝶さんはいいなぁ、こんな女房に毎晩お酌して貰いてぇやな、なんて呟いていたら、売店のオネエさんが申すに 「中に小さいポスターが入っています」 とのこと。 小さくてもポスターは折り込んじゃあいけねぇ、それよか2箱買えばポスター進呈にした方が喜ばれるぞ、と喉元まで出掛かったが、よけいなことはかろうじて言わずに済ませた。 ^^;)

ファイル 342-1.jpg