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ヤラれの美学、ハギワラ

 自分で己の趣向がこちら方面にもあるのかどうなのかよく分からないままに、毎週 「せかつよ」 という女子プロレスアニメを見ている。 まあ面白いから見ているのだろうけれど、たぶん可愛らしいヒロイン達が格闘するのがいいのだろうと思う。 ^^;)

ファイル 340-1.jpg とはいうものの、過去に催眠術の如き妖しい勧誘シャワーを浴び続けたことがあって、それが効いているのかもしれない。 随分と過去の話だが、職場の後輩君に熱狂的な女子プロレスファンの青年がいて、その男と飲む度に 「いいですよぉ、女子プロレスはホンットに面白いですよ!」 を連発するのだ。 勿論、彼の話題はそれ中心だ。 誰それがこの前ヤラれたとかヒールがどうでベビーフェイスがどうたらで、速射砲の如くその業界用語が飛んで来る。
 今から思えば早い話が 「女子プロレスオタク」 なのだ。 しかし、気のいい男で仕事は真面目で頑張るし、お客さんの受けもいい。 愛車のランエボをいつも綺麗に手入れして、決して男前とは言えぬまでも好感度が高く、女性から見れば毒がないので安心出来る。 普通、あれだけ女子プロレス広報マンのように勧誘されれば退いてしまうのだが、そうか、なるほどと、自分は彼の熱弁をいつも聞いていた。

 彼との最初の出会いが印象的だったせいもある。 職場で昼の弁当を喰っているところに彼がやってきた。 配属されてきた 「なにがし」 ですという。 そうか、よろしくな、とひと通りの挨拶をして、ふりかけをパラパラと飯の上に掛けていると、「おっ!」 と目を大きく見開く。 いいのを掛けてますね、と言う。 何を隠そう、私のそれは日頃愛用の 「プリキュアふりかけ」 なのだ。
 なんだ、おめぇさん、これ知ってンのか? と訊けば、知ってますよぉ、あの白いのと黒いのがボカボカ蹴りを入れるヤツでしょう? ときたから、オレぁこれが好きでなぁ、ファンだから毎週見てンだ、とふんぞり返ってやった。

ファイル 340-2.jpg この子らはですね、ヤラれの美学を心得てますよ、ヤラれの美学があるんです。  何の話だ、また、けったいな野郎だな。  私は口の中の飯をモゴモゴ喰いながら、そりゃ一体どういう意味なのか訊いてみた。 すると、ベビーフェイスな若いペアの本道です、と言う。 どうにもよく分からんから、後日、彼の歓迎飲み会を催して談笑の中で改めて説明して貰うことにした。

 それは女子プロレスリングの話だった。 まだ若い二人組のタッグが先輩悪役ペアに挑んだりする場合、その悪役軍団みたいなのが開始ゴング前に乱入してきて、その若い善玉ペアをリング外に放り出し、椅子で殴るわ柵に叩き付けるわの狼藉三昧を働き、試合前から既にヘロヘロにしてしまうのだそうだ。 「せかつよ」 のユンボ山本みたいな存在だ。 それはまぁエンターテイメントだから、大いにやりそうな話だ。
 それでも試合開始のゴングは鳴らされる。 ヨレヨレの躰に鞭打ってリングに這い上がろうとするヤラれ善玉の若いペア。 ジャアクキング戦でズタボロになりながらも瓦礫の中から立ち上がるプリキュアに、同様の美学を見るというのだ。 プリキュアのジャアクキング戦をそのように見る者がいたとは、こいつは面白い奴だと大笑いしてしまった。

 女子プロレスオタクな彼の話を別段苦にもならず聞いていられたのは、ひとえにプリキュアに関連付けた美学観点のおかげだろうと思う。 少なくとも、西尾大介らが繰り広げた派手な格闘アクションを彼は嫌いでなく、たまにあの女児アニメ番組を見ていたという事だ。
 一度女子プロレス見て下さい、ホントに面白いスから、ショーですけどね、あの子ら一所懸命やってンのがいいんス。 彼は飲む度に私をせっつく。 そうか、ほいじゃ、今度近くで興行あったら連れてってくれ、と頼んでおいた。 ええ、ええ、行きましょう、チケットぁ任して下さい、と上機嫌。 しかし結局機会が無く、女子プロレス観戦に連れて行って貰うことはなかった。

 昔、リングで歌うなんたらペアというのがあった。 ビューティーペアだったか? 女子プロファンでなくてもキューティー鈴木とかなんとかいう選手がえらい人気らしいというぐらいは知っていた。
 実際に芸能界の可愛こちゃんアイドルからプロレスに転身したのはミミ萩原というリングネームだった。 「せかつよ」 のモデルは彼女なのだろうか。 「萩原さくら」 というくらいだから、多分そうなのだろう。 小さな躰のベビーフェイスそのものな彼女が 「ヤラれの美学」 という形容を与えられた草分けではなかったか。
 こうして色々記憶を掘り起こしていると、観戦に行ったこともない身でありながら、なんだ、ある程度知っているではないかと自分に驚く。

ファイル 340-3.jpg 「せかつよ」 では美咲先輩がいい。 あまりキャピキャピ喋りはしないし、なんとなく強そうだ。 昨今のTVアニメ番組の中ではその作りが安上がりに見えるものの、萩原さくらがベルセルクに入団したばかりの頃と最近では、髪の長さ変化以外にその描きに多少の違いが見受けられ、おお、ハギワラ、少し成長したようだなと思わせる。

 女子プロレス興行も大変だろう。 ボロ儲けしているらしい、などの話は聞こえてこない。 実際の団体もこの作品に一枚咬んでいるようだから、これによって少しでもプロレスファンが増えれば幸いだ。

 世の中のニュースを見聞きしていれば、我欲政治屋共を片っ端からぶん殴りたくなってくる。 ブルーパンサーを許さないと闘志を剥き出したハギワラに、せめて私の溜飲を下げて貰おうと願う女子プロレス色な今宵である。
 
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