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お山

 遙か遠くの方から前線を刺激しては集中豪雨を見舞い、足早に通り過ぎればまだ可愛いものの、居座ってはいつまでも帰らぬ嫌われ客のように迷惑千万な台風が近年多いような気がする。
 梅雨前線で湿り気とカビを蔓延させつつ、紫陽花の花を小雨に煙らせ、その葉っぱに集るカタツムリを喜ばせるという、我が国の “風情” なるものが無い。

 昔の人はこの時期、雨に一句なんぞと洒落込んで歌のひとつも風流に詠んだかもしれないが、集中豪雨だ、避難だサイレンだ、消防団だ、なんて騒がねばならないのだから、紫のぉ~紫陽花煙るぅ~豪雨かなぁ~ とかなんとかしたためてでもいれば、気付けば家ごとドンブラドンブラ流されていたという間抜けな話になりかねない。

 毎年のように大降雨量を記録する地方は雨雲が引っ掛かり易いのだから、概ね急峻な地形であると言える。 長年に亘ってそこへバケツひっくり返した如き降雨では、より谷は深く削られ、山肌は崩壊を繰り返し、いつまで経っても緩やかな地形にほど遠く、むしろ鋭利に尖りがち。
 その山腹にあるのは富国強兵下の国策で植えられた杉だの檜だの、雨と霧さえくれてやれば馬鹿みたいに育つ畑の作物のような樹木ばかりだ。 おまけに手入れはせず、日陰のモヤシでは山肌養生にも保水帯にもなりはしない。 あそこも崩れた、ここも崩れたと嘆いたところで、地主は再び同じようなものを植えてほったらかしておくのだから、学習能力欠如も極まっている。 山を畑のように考えているのなら、馬鹿野郎、管理ぐらいちゃんとやれ、とまたもや愚痴が出る。

 紀南地方や四国の岬周辺など、カシ、ウバメガシの群生が目にとまる。見てくれからしても、いかにも強靱そうな森を形成している。 これらは痩せた山でも厭わず、風にも強い。 豪雨による杉山の崩壊を見るに付け、あれを見るとホッとする。