記事一覧

けいおん!! 第2期は 「あずにゃん」

 作者の理想なのか、優しさなのか、或いはアニメスタッフの強調であるのか、年下の少女達がまことによくデキた人物になっている。
 周知の如く、平沢唯は妹の存在なくして日常生活出来ない姉である。ひと昔前のオヤジ、いわゆる “旦那” そのもので、横のものを縦にもしない。ギターを弄る以外はぐうたらゴロゴロするだけで、喰ってはトイレに通い、太らない体質がかろうじて彼女を支えているような日々である。

 その姉を慕い、自分が面倒見なければいけないのだと甲斐甲斐しい世話女房の役割を続ける妹・憂は、自分のそのあり方に少しの疑問も不安も抱いていない。こうあるのが自分の生き方なのだと、その若さにて悟りの境地にあるようで、姉の笑顔に喜びこそあれ苦労などという思いはさらさらない。つまりは、ぐうたらお姉ちゃんを大好きなのである。なんといじらしく健気でよくできた妹であることか。
 いずれ姉の唯は結婚して夫と共に暮らす未来が待っていよう。その時、はたして憂はどうなるのであろうか。人格破壊せずに持ち堪えられるであろうか。それとも新婚家庭に毎日押し掛ける嫌われ姑婆ぁの如くに成り果てるだろうか。先の事ながらその点は少々心配である。姉は高校を卒業していったのだから、もうそろそろ独り立ちさせるべく、自分も世話女房を卒業していいだろう。

 中野梓という後輩少女も実にいい子である。何をやらせても可愛らしいのである。四人の先輩に対する敬いを常に忘れず、生真面目な性格がいじらしさを引き立てている。小学生のプール娘のように真っ黒に日焼けしたその姿は、ちんちくりんなベビーフェイスも手伝って、もはや一緒に風呂に入ってくれなくなった我が娘も小さい頃は可愛かったなと、全国のお父様連中の胸を打ったに違いない。桜高祭にお呼ばれがあったなら、真っ先に「峠の茶屋」へ行くべきだと、ニヘラニヘラ目尻を下げるオジサンも多かろう。二人の茶屋娘が買い出しに来たコンビニの兄ちゃんなどは、夢心地のあまり領収書にハンコ押すのを忘れたのではなかろうか。
 
 第2期は概ね中野梓からの視点で描かれた作品でもあるだろう。新年度初めに新入部員獲得に動くものの昨年の梓のように物好きな生徒はいない。このままでは来年はあずにゃん一人になってしまうと先輩達が気遣う。それがありがたくもあり、また一抹の寂しさも過ぎる。しかし振り返ってみれば今のこの5人がベストであり、残された月日をこの先輩達とだけでやっていくのも悪くない、いや、むしろ今のバンドを変えたくないと気付く。このエピソードから第2期は始まる。

 四人組に後輩一人という編成が梓をマスコット的存在にさせている。梓にとってはどっちを向いても奇妙で個性的な先輩しかいない。ちょっと目を離すとどこかへ飛んでいってしまいそうな先輩連中なのだから、その生真面目さ故に 「自分がしっかりせねば」 と自身に言い聞かせる。そこにまた健気な可愛さが顔を見せる。
 この第2期の第16話で 「梓から見た先輩達」 が紹介されている。第1期で中野梓登場と同時にそれは順次取り上げられていったエピソードだが、第2期で改めて用いられているのは、ひとえに環境の違いだろう。後輩は入ってこなかったけれど、今年はこのままで先輩達と最後の1年を過ごすのだと、梓自ら決断した環境が前提にある。

 この人達はいつになったら真面目にバンド練習するのかと気に病んだ第1期と同じく、クラスの出し物 「ロミオとジュリエット」 に没頭の先輩達に不安が募る。このままでは学園祭ライブに向けた練習もままならない。
 音感の良さとマスターの早さは天下一品ながら、唯先輩には常に助言が必要だ。なにせ錆びた弦を平気で使い続けるような人だし、ネックの反りにも気付きそうでない。私の目の届く範囲にいて下さいというのは梓の本音だ。思えば、あずにゃんには入部以来なにかに付け心配事が尽きない日々であった。

 先輩達の様々な姿を案じ、不安にもなり、悩める日々を送りもするが、このマスコット少女はいつも最後には先輩達の温もりに包まれる幸せ者である。別の見方をすれば、たった1学年しか違わぬ間柄ではあっても、この破天荒な先輩達と生真面目な梓には成長過程な人間の懐の深さに於いてまだまだ大きな隔たりのある事が表されているだろう。

 第1期が2年目の学園祭ライブで幕を閉じたのを見れば、それが彼女等の目標とするステージであるのが分かる。最上級生である先輩達は今年の学園祭を最後にもう二度とそこに立つことはない。このメンバーで曲を披露することはもう叶わないのだ。この学園祭ライブをフォルテシモとするそれに向けたクレッシェンドによって、視聴者は梓に感情移入せざるを得ない。
 華々しく大成功に終わった三年目の学園祭ライブ。祭りの後の寂寞と気怠さ。達成の充実感の中、目の前にある事実はこのバンドの終焉である。泣き崩れる娘達に付き合ってしんみりした気分にさせられるが、気丈に振る舞う後輩・梓の姿に胸のどこかがチクリと痛む。

 先輩達の合格祈願だと神社拝殿に手を合わせ、深々とお辞儀する。こんな後輩は今時何人いるだろうか。授業中に届いたメールには四つの開花桜。その喜びの表情を見れば、返す返すもデキすぎた年下少女達ではないか。
 だがこの気丈さは先輩達の卒業式という日に崩れ落ちる。卒業しないでくれと泣くあずにゃんの姿に耐えられる者はそういまい。ここに於いて、オジサン達はこの愛玩ネコのようなマスコット少女に完全にイカれてしまっている己を知ることになるのである。