わいわい・・・・がやがや・・・・


   「いやもう、凄ぇのなんのって・・・! 
    こりゃあ暫くァあんな喧嘩ァもう見れねぇな」

   「火薬玉ぁバンバン放ってよォ、
    三羽烏とマキ五郎ぁ斬るわ斬るわだったしな、
    また御高倶山の足の速ぇことったらよォ!」

   「おーい、ねーちゃん、腹減ったぁ! 五人前!
    とりあえず先に茶ァくれぇー!」

「は、はい! ただいま・・・・!」








「あ、あの・・・! 喧嘩は・・・!」

「ん? ああ、お前さんも見に行きたかったのかぃ?
店があるんじゃしょうがねぇわなぁ、気の毒だなぁ」

「あの・・・大丈夫だったんでしょうか?! みんな・・・」

「斬るも斬ったりで火薬玉ァ爆ざしまくりだしよ、
バタバタ倒れちまうわ、ヘタリ込んで動けねぇヤツも
大勢いたなぁ」

「え! き、斬られて死んだ人は・・・?!」

「死んだヤツぁどうかなぁ?
深傷のモンぁかなりいたようだけどよ」


「ええっ! じゃ、あの・・・親分さん達は?!」








「はは・・・なぎ次郎ァ足が付いてかなくてよ、
ヘタリ込んじまったがな、終ぇに御高倶山の砦を
潰しちまって、そこで勝蔵ァめぇったさ」

「じゃあ、あの・・・勝蔵親分・・・いえ、あの・・・
御高倶山の親分さんは・・・・!」

「さすがに勝蔵だぁ、負け際もいさぎええやな。
もうフラフラで動けねぇなぎ次郎に歩み寄っちゃあ
オレの負けだ好きにしろってンだからオトコだわなぁ。
あそこで勝蔵が抜いてりゃ、なぎ次郎ァ斬られてたぜ」








          (・・・・・・・・・・・・)


「ど、どうなったんですか?!」

「細けぇこたぁ分からねぇけどよ、手打ちみてぇだな。
なぎ次郎ァ船も船荷も扱ってっから筏流しの仕切り
でも貰うんじゃねぇかぁ?」


「無事なんですね! みんな、無事なんですね!」

「お、おぅ・・・・。三羽烏もマキ五郎もな。
なんでぃ、惚れた男でもいるのかい?
一家の若ぇ衆によ?」

「あ、ありがとう御座いました!」








「う・・・・うう・・・・・」



 ( よかった・・・・よかった・・・・・! )

 ( 勝蔵親分・・・・・・! )


 ( なぎ次郎親分・・・みんなも・・・・! )








( ・・・・辛かったろうね・・・
 あんたは、おほのさんとは違うから・・・ )

( でも、よく辛抱したよ
 えらいよ、おひか・・・・・・ )





( さて・・・・こいからだねぇ・・・
           あたしも含めてさ・・・・ )


























          チ、チュン・・・・チチッ・・・・

            ピキキッ・・・・ピュ、ピュ・・・・・








「なに志穂松、おめぇお江戸へ行くんだってぇ話じゃ
ねぇかい?」

「そーなんでやすよ、親分。
あっしゃあ習いに行ってきやす!」

「おめぇは久保田村へけぇっても身寄りぁねぇしなぁ。
で、何を習いに行くンでぇ?」

「へぇ、実ァ姐さんに戴きやした牛若丸を読みやしたら
これがえれぇ面白ぇんでさ! まだ終ぇんまで読んだ
んじゃねンでやすがね、京の五條の橋の上、こう・・・
ヒラリヒラリとあやかしみてぇに舞うんでさぁ」

「お、おぅ・・・義経公だろぅ、確かそんな話だぁな」

「でやしょ? でやすからね、そいつを軽業芝居に
してぇんでさ! あっしゃあその座長になるんでやす」








「おめぇ、やっぱり変わった野郎だな。そんなこと
考ぇてたのけ?」

「ハハ・・・親分、志穂松ァ昔っから芝居作りてぇって
言ってやしてね、だもんで姐さんに字ィ習うのも熱心
だったでやすよ」

「そうけぇ、そいじゃあ一丁前になったら辺路寝湊へ
おめぇの一座呼んでやらぁ。先代とおんなじ四分六でぇ。
マキ五郎に頼んどいてやるわな」

「いや、親分、そん時ァ七つ戴きやすよ」

「なんだとぉ、この野郎ォ?」

「親分と姐さんにゃ看板役者張って貰いやすからね。
雇った役者にゃ一座から払わにゃなりやせんので」












「なんでおめぇの一座にオレとおほのが出るンでぇ?」

「なんたって辺路寝湊じゃ知らねぇモンぁいやせん。これだけ客寄せ出来るンぁそこいらの三文役者
にゃおりやせんからね。 へっへ・・・・親分、儲かりやすぜぇ」

「とんでもねぇ野郎だな、おめぇぁよォ」

「姐さんをぶら下げる訳にゃいきやせんので、牛若ァ親分で、姐さんにゃ弁慶をおねげぇしやすよ。
でけぇヒゲでも付けて貰えりゃ、こりゃあウケること間違ぇ無ぇでやす!」

「なんでぇ、そのぶら下げるってなぁ?」

「軽業芝居でやすよぉ? 天井から親分を縄で吊らくってでやすね、こう・・・フワリフワリと・・・・」

「・・・・・・・おめぇにゃ負けらぁな」








「はは・・・親分、目ェまん丸くしてたなぁ」

「ところで莉奈吉ィ、おめぇはいつけぇるんでぇ?」

「おめぇも聞いたろ? メグ蔵のヤツ、祝言挙げて
ねぇンで親分と姐さんが音頭取ってよ・・・・
マキ五郎の襲名披露もあるしよ」

「ああ、そうだわな。そいつォ祝ってやンねぇとな」

「襲名披露ァいつンなんでぇ?」

「祝言と似たよな時期になるんじゃねぇかい? 
ひょっとすりゃあ一緒に派手なのをブチ挙げるかもなぁ」
   








「親分の話じゃ御高倶山の勝蔵親分も若ぇモンに
譲るらしいじゃねぇか」

「うーん・・・あの親分の喧嘩も凄ぇモンだったなぁ・・・」

「向こうが折れたからいいよなもんで、続けてりゃ
共倒れになっちまったかもしんねぇ」

「とどのつまりよぉ、親分ァ何を突き付けたんでぇ?」

「わかんねぇのさや。
勝蔵親分ァ『マッタケぁやらねぇぞ』なんてよ、えれぇ
怒ってたのだけ聞こえたけどよ」

「親分のことだもんでよォ、何か旨ぇモンでもよこせ
って話じゃねぇのかぁ?」
                 




















「よぅ、おひか。どうでぇ、機嫌ァ治ったけぇ?」

「あ! 親分! こ、この前はすみませんでした。
あたし・・・あの、その・・・ごめんなさい!」

「ええってことよ。オレをド叱るくれぇ案じてくれたんでぃ、
勝蔵の野郎ォ、幸せモンだぜぇ。けったいくそわりぃやな。
わぁははははあーっ!」

「そんな・・・・あの・・・・」

「うっふふ・・・! 無事で良かったじゃありませんか、
おひかちゃん」

「は・・・・はい!」








「おめぇ、オレがマキ五郎に一家ぁ渡す話ァ
知ってるな?」

「はい、お客さん達がみんなそう言ってます。
メグ蔵さんの祝言もお二人がお骨折りとか・・・」

「実ぁな、御高倶山でもおんなじ事になってんでぇ」

「え? それって・・・?」

「勝蔵も若ぇ衆に渡しちまうらしい。跡目ァ若ぇ衆に
決めさせるとかいう話でぇ。あの野郎らしいぜ」

「そうなんですか・・・・。
じゃあもう喧嘩しなくていいんですね! 親分?」

「ああそうともよ、少なくとも勝蔵たぁな。
おめぇにゃ心配掛けて悪かったなぁ、勘弁してくんな」








「おまいさん、どうするつもりなんですか?」

「何をよォ?」

「肝心な話ですよ。喧嘩の後に勝蔵親分を
せっついたんでしょ? 手打ちの条件にしたんじゃ
なかったですか?」

「あーんな意固地なヤツぁ初めてでぇ! 一筋縄じゃ
括れねぇよ。あれ以上言やぁ斬られちまいそうでぇ」

「脈はありそうなんですか?」

「おおありでぃ! ありゃあ惚れちまってらぁな。
おひかの方から押し掛けちめやぁ一発でぃ」

「それは・・・! あの方は何にこだわりなさってるん
でしょう?」








「花ァ摘み取るモンじゃねぇとかなんとか・・・・
そんな御託ばっか並べぁがってよ。ケヘェーッ!
カッコ付けてんじゃねぇやな、あんちくしょお!」

「あたし達がみんな大事にしてるのを知ってなさるから、
取り上げてしまうよに思うんでしょうか?」

「そりゃまぁおひかがいなくなるとなりゃ、オレも寂しい
やな。女将なんてぇおっ母さんみてぇにしてきたからな」

「おまいさん! そうですよ!」

「な、なんでぇ?」

「女将さんはどうお思いなんでしょうかね?」








「腹ァ減ってフラフラ近寄ってきた訳の解らんアマッ娘を助けてやってよ、一緒に住んで読み書き
算盤まで習わせてきたんだ。てめぇの腹痛めて産んだ子と変わりァねぇだろうな」

「そうなんですよ。頭のいいコですからね、今じゃりっぱに女将さんの留守も預かってますし。
この大きな屋台とこれだけのお客さん、女将さん一人じゃ大変ですよ。あたしゃこの前半日だけ
手伝いましたけどね、キツイ仕事なんですよ、おまいさん」

「んー・・・・かといってなぁ・・・・女将だってよぉ、おひかにゃ幸せンなって貰いてぇだろうしなぁ・・・」

「女将さん御自身も中尾屋さんの若旦那とどういう間柄になっていなさンのか分かりませんしねぇ。
おひかちゃんだって、あのコはそりゃもう女将さんに恩義を感じてるんですよ。おっ母さんみたいに
思ってますよ」

「ううむ・・・・オレぁよォ、しち面倒臭ぇこたぁ嫌ぇだもんでよ、おひかを炭俵ン中へ押し込んでよ、
馬の背に括り付けて荷札付きで御高倶山まで飛ばしちまえぃ、って思ってたのよ。御高倶川沿いに
川上向けて馬のケツぶっ叩きゃ勝蔵んトコまで届くだろうってなぁ。これぁそんな訳にゃいかねぇかぁ・・・」

「おまいさん! あのコを何だと思ってんですか!」




















「ねぇ・・・・」

「あぁ?」

「店持つんならさ、こういうのいいね」

「この屋台みてぇなのかぁ?」

「そうだよ。人の集まりそな所へ動けるしさ」

「簡単にゃいかねぇぞォ・・・。
この屋台見てみろぃ、銭かけてあンぞォ」








「家みてぇにでけぇしよォ。
引き摺って歩くだけでもてぇへんだぜぇ」

「もっとこぢんまりしたのから始めりゃどうかねぇ」

「おめぇな、客が来る来ねぇってなぁ愛想なんでぃ。
ここの女将見てみろぃ、商売上手だぜぇ。それによ、
看板娘の娘さんがよくデキたコじゃねぇか。おめぇに
あのコの真似ァ出来ねぇぞォ」

「失礼じゃないか、あたしだって女だよ」

「い、いや、おめぇはいい女だよ。けどなぁ、生娘の
可愛らしさってなぁ別モンでよ、とびきりじゃねぇか」








「ふぅ・・・まぁそう言われりゃあねぇ・・・。
この屋台もあのコが手伝い始めてから大層な
繁盛らしいしねぇ」

「聞いた話じゃよ、実の娘さんじゃねぇんだそうでぇ」

「そうなのかい? 母一人子一人かと思ってたよ。
確かに女将さんの歳にしちゃおっきな子だからね」

「色々訳があンだろうよ。
けど、どう見てもええ母子だわなぁ・・・・」

「ね、ねぇ、あたしらも早く可愛い娘をさ・・・・」

「ええぃ! 昼間っからそんな目ェすんじゃねぇやな!」












( この屋台もあのコが手伝い始めてから大層な
 繁盛らしいしねぇ )


( 色々訳があンだろうよ。
 けど、どう見てもええ母子だわなぁ・・・・ )












( お客さんから評判いいんだよねー。帳簿見てもさ、
 あんた手伝ってくれてから売上げいいんだよぉー )


( あはは・・・だ、だからさ、
 こいからも頼りにしちゃっていいかなーって・・・・
 ・・・・あはは! )





         ( 女将さん・・・・・・ )








( こうやってね、玉の雫をちょいと落として
 みるんだよ。それで炭の具合と鉄板の熱さ
 加減を丁度いいトコへもってくんだ。
 ホラ、これ位がいいんだよ )



( いいかい、よく見とくんだよ。焼き上がりの色は
 これ位さ。焼けた音と色と匂いなんだよ。
 鼻を効かすんだよ。この色と匂いさ、失敗しても
 いいから何遍でもやってごらん )








( おひかぁ、あんた器用なコだねぇ。もう算盤
 使えるよになったのかぇ! すごいじゃないかぁ! )



( そうそう、勘定が合ってたらそこへ書いとくんだよ。
 え? この朱書きかい? こりゃあ儲け出なくて
 おアシの分さ。ホラ、近頃はそんなのないだろ )








( 祭だってのに、すまないねぇ、おひか・・・
 着物の一枚も買ってやれないしさ・・・・ )


        ( 女将さん・・・・・ )




( おひかさんはこんなええ人達に包まれて
 いなさるんだ。ありがてぇと思う心、そいつぁ
 後生でぇじに持ち続けて下せぇや )


        ( 勝蔵親分・・・・・ )





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第十九幕  女将さん



      
      恨み辛みぁ御座いやせんが 避けちゃ通れぬ勝負の掟  道具のダンビラぁ振り回し ケリをつけるが男の意気地