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( ・・・みんな大丈夫かな・・・・? ) ( ・・・お客さん、まだ二組しか来ない・・・・ まだ喧嘩続いてるってことだよね・・・・ ) |
「どうしたァ、看板娘ぇ・・・?」 「いえ、あの・・・・」 「心配しなさんな、あン人達ゃ火事ン中へ飛び込んだって 生きて帰るよな人達さぁ。きっとみんな無傷でいるよ」 「・・・・はい」 「ここまで待ったんだ、こうなりゃ意地だよ、喧嘩見に 行った衆がどぉっと流れて来るまで開けてようじゃないか。 そうすりゃあんたの案じてるお人の様子も聞けるしさ」 「え? あ・・・はい・・・・」 |
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「ぅわぁあっ! ひえぇ!」 「なにやってんでぇ! なぎ次郎が突っ込んで来やがったじゃねぇか!」 「クソォ! あの野郎らわざとヤツの前に火薬玉ァ!」 「うへっ! 煙で見えねぇ! ヤツぁどこだ!」 「あややっ! 突っ切られたぞォ! 追えぇ!」 「野郎ォ! 通すか!」 ガキィーン! チンッ! 「ええぃ! どけぃ!」 ザシュッ! 「ぐぁっ!」 |
「志穂松ゥー! 西の藪っきわァ手薄だー! あっちを突っ切れぃ! アレをやるぞーっ!」 「えっ! ホ、ホントですかぃ!」 「残りぁオレの一発だけでぃ! おめぇにしか出来ねぇんだ! 行けぇーい!」 「い、いや、でもよ親分、ありゃあ!」 「うっせぇ! グダグダ言ってんなっ! 塞がれちまうぞーっ!」 |
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「げっ!」 「志穂松だな、くたばって貰うぜ!」 「や、野郎ォ! どきぁがれ!」 チンッ! ガィーンッ! キンッ! キンッ! 「このォ!」 「やっちめぇ! ぷりくわぱんつだ!」 |
「うぇ! あの・・・バカッ!」 「なにやってんだ! おめぇはァ!」 タタタタタ・・・・ |
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シュバッ! 「ぎぇっ!」 「馬鹿野郎ゥ! てめぇ何やってんでぇ! 早く行けぇ!」 「そ、そんなこと言ってもよぉ、おめぇ・・・!」 「親分とおめぇにしか出来ねンだ! この野郎ォ!」 チィーン! ガィン! 「骨ァ拾ってやる! 行けぇ! 志穂松!」 |
「ク、クソォ! よ・・・よし! どうにでもなりぁがれぃ! 行くぞ!」 「待てぇ! 野郎ォ! 通すか!」 「志穂松ォ逃がすな! 斬れぇ!」 「げっ! て、てめぇは莉奈吉ィ・・・!」 「相手ぁオレがしてやる! きぁがれ!」 |
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「親分に遅れを取ンじゃねぇぞーっ! 行っけぇーー!」 ズバシュッ! 「ぅわあぁ!」 |
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「チッ! ・・・・なぎ次郎ォ! 派手に突っ切りやがったな! けど、そこまででぃ!」 「どけぇーっ! そいつァオレの獲物だァ! 待ちやがれ! なぎ次郎ぉぉぉーーー!」 |
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・お、遅れねぇさ! ・・・み、見てぁがれ!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ |
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( えっ! あっしにそれをやれってンですかぃ! )![]() |
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「おぅよ! おめぇさ、おめぇでなきゃこいつぁ無理だ」 「な、なんでまたあっしにそんなヤベぇ事・・・!」 「メグ蔵でも莉奈吉でもな、力ぁ任せにやり過ぎる。 マキ五郎なんてなぁ器用さぁまったく無ぇしよ」 「し、しかしよ・・・親分、ちょいと間違やぁあっしゃ死に やすぜ・・・!」 「そンために稽古しろってンじゃねぇか」 「む、無茶苦茶でやすよぉ〜!」 「無茶もヘチマもあるけぇ! やるんだよ!」 |
「噂じゃ御高倶山ぁ火薬玉ァ得意にしてるらしいじゃ ねぇか。オレぁぶった斬る方が得意だけどよ、こちとら も幾つかぁ用意しとかにゃなんねぇ」 「そりゃそうでやすが、こんなもなぁぶつけちまやぁいい じゃねぇですかぃ」 「おめぇもこンめぇ勝蔵に会って分かンだろう? ヤツぁ ぜってぇまともにゃ放ってこねぇぞ」 「へぇ・・・アタマの良さそな人でやしたからねぇ」 「だからよ、こいつぁ奥の手でぃ。しょっちゅうやれたぁ 言わねぇさ。 けど危ねぇ仕事だからよ、稽古だけぁ しっかりやっとくんでぃ! 始めるぞ!」 |
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「ああ、こんなトコにいたのかぇ。明日が出入り だっていうのに、遅くまで何やってるんだい?」 「へぇ、道具の手入れと火薬玉の支度をしており やしたんでさぁ。せいぜい五つしか出来ねぇ でやすよ」 「これが火薬玉かい? これを投げ付けて爆ぜ させるのかぇ。おっかない時勢だねぇ」 「へぇ、扱いが難しいんでさぁ。特にあっしゃ・・・」 「お前ここンところ毎晩遅くまで一人で稽古してる じゃないかぇ。これの放り方を何遍もやってた みたいだけど・・・。普通に放っちゃいけないの かい?」 「誰にも出来ねぇ事をやらにゃなんねぇんでやすよ」 |
「喧嘩の最中に取り囲まれて身動き出来ねぇコトも あるんでやすよ。こいつを放りたくても放れねぇんで、 そんなときゃ味方の誰かに放り渡さにゃなんねぇんで やす」 「おっかないねぇ、爆ぜないように受け取れるのかい?」 「でぇ丈夫でやすよ。やんわらかく受けりゃええんで、 そいつぁ何とでもなりやす。あっしのやるこたぁもちっと やっけぇで難しンでさぁ」 「な、何をしようってンだい?」 「やんわらかく受けてそれでまたてめぇの体勢整え 直して・・・なんてことしてる暇を敵の野郎共にやらねン でさぁ。う〜ん、羽根つきの要領でやすかね」 「お、お前、放ってきたこんな物を叩くのかぇ!」 「爆ぜねぇギリギリの強さで受けるんでさ。そいで そのまま振りかぶらねぇで一気に放りやす。 ハタから見りゃぶっ叩いたように見える筈でやす。 あまりの速さに敵の目が付いて来れねンでさぁ」 |
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「なんてことを! 志穂松! そんなことおやめ! 爆ぜたらお前・・・お前・・・!」 「へぇ、あっしも最初はおっかねぇばかりで・・・。 けど、こいつを見て下せぇ。熟した柿で稽古したんで さぁ。若ぇ衆にこの熟し柿を思いっきりぶつけてもらい やしてね。この前一度だけ本物使って受け返して みたんでやすがね。親分相手に上手くいきやした」 「いけません! ウチの人もウチの人だよ、なんて ことさせるのかね! あたしが言ってあげます。 いいね、これはおやめ!」 「待って下せぇ、姐さん。こいつぁ喧嘩で使うかどうか も決めてやせんし、あっし一人でやるモンでもねぇん でさぁ。投げて来る相方ぁ親分以外に出来やせん から、親分がやると言いなさらねぇ限り日の目見る こたぁねぇんでやす」 「それならウチの人に言っときます! まったく 何を考えてんのか・・・!」 |
「それよりお前、長い間御苦労だったねぇ。お前が 居てくれたんでどれだけ家ン中が明るかったことか。 若い衆が辛抱出来たのもお前のおかげだよ」 「へぇ、あっしでも何かのお役に立ったンでやすか」 「何を言ってるんだい。湊に船が着いて御覧な、 船の衆は真っ先お前に会いに来るじゃないか。 お前の人を惹き付ける力は財産なんだよ。いつ までもそのままのお前でいておくれ」 「へ、へぇ・・・なんか姐さんにそう言われりゃ、なん ともありがてぇでやすが・・・。あっしの方こそ姐さん にゃ字ィ教えて貰いやして、忙しいに申し訳ねぇと 常々思ってやした。ありがとう御座いやした」 「一番熱心に習ってくれたからねぇ。お前は覚えも 早かったよ。あぁ、そうそう、これをお前に貰って欲し くてね、持って来たんだよ」 「あ! こ、こりゃあ! 姐さん・・・!」 |
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「お前、以前に牛若丸の話を読んでみたいって 言ってたじゃないか。綺麗なのが手に入ったんで 大事に取っといたんだよ」 「うう・・・うう・・・」 「志穂松・・・?」 |
「・・・・す、すまねぇ・・・・すまねぇ・・・・姐さん、 こんなあっしに・・・・覚えてて下すったんで・・・」 「そんなに・・・・欲しかったのかい?」 「話ァてぇげぇ知ってンでやす。てめぇで・・・・ 読みモンをてめぇの目で読んで・・・! ・・・・腹に入れたかったでやす! 姐さんから習った覚えで・・・・・ 読みモン読むってことしたかったでやす! あ、ありがとうごぜぇやす!」 「志穂松・・・・!」 |
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「そうかい・・・・うんうん、そうだね・・・うう・・・」 「姐さん・・・!」 「さむらいの子でも、習わせているのに嫌がる 子が多いという・・・・ お前はなんて立派なんだろうね。・・・・うっ・・・」 「勿体ねぇ・・・あ、あっしみてぇなモンに・・・!」 「お読み、志穂松。 ウチで字ィ覚えたお前が 心ゆくまで読んどぉくれ・・・!」 「へぇ! でぇじにしやす! 何遍でもでぇじに 読ませていただきやす、姐さん・・・!」 |
「お前の終い喧嘩・・・・ 無事に帰ってきとぉくれ、志穂松」 「へぃ」 「これを読むことも出来ないよな身体に ならないどぉくれ。そんな子ならあたしゃ これを渡しゃしなかったよ」 「へぃ・・・・」 「おまえが稽古してた火薬玉の扱いは 決してするんじゃないよ。約束しとぉくれ」 「へ・・・へぃ・・・・」 「死ぬんじゃないよ! 生きて帰っとくれ! お願いだよ、志穂松・・・!」 |
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「も・・・勿体無ぇ・・・・! あ、あっしにそんな・・・・姐さん・・・!」 |
・・・・お読み志穂松、心ゆくまで読んどくれ・・・!![]() |
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「姐さん・・・・! あっしみてぇなモンに・・・ 泣いて下さりやして・・・・・」 「けど、今ぁ、今ぁ・・・! あっしゃあ、ヤらにゃなンねぇんでやす!」 「お守り下せぇ! 姐さん!」 |
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「な、なぎ次郎! 野郎ォ、きぁがったぁ! 火薬玉持ってやがるぞォーっ!」 「クソッ! 砦周りの守り衆しか間に合わねぇ!」 「かまぁねぇ! 斬るしかねンでぃ! きぁがれなぎ次郎! オレ達の金ボシでぃ!」 |
「何としても止めとけぇぇー! 今行くぅ!」 「なぎ次郎ォォ! てめぇはオレが叩っ斬る!」 |
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