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痛ましい

 高校生の女の子が帰宅途中に工事現場事故に巻き込まれて命を絶たれた。公道を自転車通行していて倒れてきた壁の下敷きになった。地球の反対側では地下坑道から奇跡の生還だと沸いている最中、この痛ましい事故は起こった。

 工事現場とか製作工場内では大なり小なり事故は起こる。それは人間のミスであったり地震を筆頭の自然災害によるものであったりする。大概の場合、人間は危険の予知をする。そうやると危ないとかこのままでは保たないとかの予知である。至極まれに動物的な感覚が知らせてもくれる。今朝からなんとなく厭な気がする、というヤツだ。
 また事故というのはその仕事の取り掛かりや終い付近で起こりがちだ。工場の正午の知らせが鳴る直前に機械に指を挟まれるとか、午後の仕事始めに工事現場で足場を踏み外すなどというのが多いのだ。前者は 「あと少しで終わる」 という気の緩みだろうし、後者は肉体や気概が仕事に順応出来ていないのが主たる原因かもしれない。

 壁を工事範囲の外側にぶっ倒してしまった今回の事故を見れば、とりあえずのブロックで最後に残った一枚壁だったようだ。それはつまり、そこで一段落する 「終いの作業」 だったに他ならない。ツメが甘い、気の緩み、作業の手抜き、色々な原因が取り沙汰されよう。決して倒してはならない方向に倒してしまい、道行く第三者の尊い命を奪った責任は重い。その最悪の事態だけは避けねばならない安全対策があった筈で、内側に引っ張り込んでおくという単純かつ基本の事前処置を何故怠ったのか、今となっては取り返しがつかない。

 最近クレーンをぶっ倒したり架空線を引っ掛けてしまったりという事例が妙に多い。かなり無理もしているのではないかという憶測も生じる。叩き合いの請負業にデフレは追い打ちだろう。かといって省いてはならない手間というものがある。人命は戻らないのだ。
 勝手な想像で申し訳ないが、事故を起こしたこの解体業者もおそらく納得出来る額面で請け負ってはいまい。無理してでも請けねば売り上げそのものが下降の一途だ。そこで第三者死亡事故では泣きっ面に蜂などという生やさしい損害ではない。また解体業という業種は既存のものを壊して処分するのだから材料を一切使わない。資材調達で叩いて少しでも息つくという事も出来ない。いかに効率良く手早く作業を進めるかが大きなウェイトを占めるのだろう。そこに心の隙間がなかったろうか。