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吊り天上

「ほんの数秒差で助かった人もイんだろうけどよ、命落としたひたぁかえぇそうだなぁ」

  「ホンマですな、エライ事故ですわな。 点検してなかったらしいですな」

「だがよぉ、何十年も昔のモンたぁいえよ、ひでぇ設計構造じゃねぇかい」

  「そうですかいな? 老朽化が悪いんでっしゃろ?」

「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。 コンクリート床版吊ってンだぜ。 いかにも貧弱でお粗末じゃねぇかい。 体育館の薄っぺら天上たぁ訳が違うんだぜ。 なんでぇ、あのボルトぁよ。 16mmだなんだって言ってンじゃねぇか。 しかもよ、ド真ん中だけの一本吊りだぞ」

  「それがサビただかなんだかで抜けてしもうたんやないですかいな」

「だいたいな、そこで吊ってるってこたぁよ、そのアンカーと吊り金具ぁ生命線じゃねぇかい。 しかも後付けだろ? 引き抜き方向に力が掛かンだぜ。 普通ぁよ、コンクリートん中にフック付きのを埋め込みそうなモンじゃねぇか」

  「それやると、トンネルのアーチ型枠が難しいんでしょうなぁ」

「出来ねぇこたぁねぇさ、手間暇掛けりゃあな。 それになぁ、トンネルのコンクリートってのぁな、真ん中の一番トップがウイークポイントなんだぜ。 あそこの充填をしっかりやっとかねぇとコンクリートが薄くなる可能性が高ぇんだ。 勿論、グラウトはするけどな」

  「ははぁ、なるほど」

「まぁ、後付けアンカーで引き抜き方向の力をそれでもたせようってんだからな、クソ重てぇコンクリート床版をよ。 小せぇボルト止めの一本吊りで。 今じゃあどんな御用設計屋でもあんな構造にゃしめぇよ」

  「返す返すも、亡くなられた人らはホンマお気の毒ですわなぁ・・・・・」