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己の不注意

 背丈ほどの長さの杭を右脇に抱え、左手に掛矢を持って畑の中を歩いていたら、杭の先が今年伸びた新芽の枝先を跳ねて自分の顔面を直撃した。 右瞼を鞭打たれて動けず、暫く蹲っていたものの、情け無いことに右目が開けられない。 閉じたままの目からやたら涙ばかりが滲んでくる。
 これはみっともない事態だ。 かといって己の不注意なのだからして、畑に当たり散らすわけにもゆかぬ。 なんてこった、ちきしょーめと不甲斐無さに腹を立てるだけである。
 片手で右目を覆い、とぼとぼと家に戻った。 我が家の農園長であるお袋さんに 「労災を適用してくれ」 とジョークを飛ばせば、「アホかお前は、目ン玉傷付いてなきゃ瞼へオロナインでも塗っとけ」 と眼帯を渡された。 ^^;)

 江戸時代の博打打ちでイカサマや勝ち逃げを目論む者は、桑畑の中に盆を設けたそうだ。 桑の葉を摘んでしまった冬場など、あの畑の中は逃げ易い。 てめぇイカサマじゃねぇかとバレたらその場の銭を引っ掴んで桑畑の中を一目散に逃げるのだ。 追い掛ける方はたまらない。 逃げる奴が無数の枝をピシピシ跳ねるので追えたものではない。

 子供の頃、近所にまだ桑畑があった。 冬の追っ掛けっこやチャンバラごっこなどでも、桑畑に逃げる奴は “反則” であるという暗黙の決め事があったように記憶している。 オロナイン塗って眼帯をはめながら、苦笑しつつそんなことが想い出された。

 それにしても、自分が丸一日眼帯で片眼を養生するはめになると、美少女眼帯キャラに萌える輩が結構いるそうだという話には少々苦々しい思いがする。 ^^;)

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