記事一覧

SUMO

 ヨーロッパ相撲選手権を取材した番組を2時間枠でやっていた。 相撲協会とNHKなればこその企画で、これがなかなか面白かった。
 レスリングだサンボだ柔道だといった異種格闘技からかなり影響を受けているらしく、およそ日本の大相撲では見られない技が繰り広げられる。 簡易造りな土俵にそれでもまがりなりの吊り屋根をあつらえ、土俵入りの真似事までやっているのを見れば、”SUMO” ではあっても日本の大相撲に限りなく近付けたい憧れを持つのであろう状況が見て取れる。

 審判員の目に左右され、よくわからないポイントを取り合うシステムに比べて、数秒間で判り易い決着の付けられるSUMOがいいのだという。 確かにレスリングも柔道もポイントを溜めた方が有利で、買収された素人審判による不可解な判定がしょっちゅう問題に上げられる。 勝負に際した決め事が単純明快でないからだ。

 心・技・体の、とりわけ礼に始まり礼に終わる伝統の精神性を彼等がどこまで理解できるのか分からないが、八百長相撲の表沙汰騒動に本場所中止とまで追い込まれた恥っ晒しな事実を、遠い異国の彼等はどのような目で見たのだろうか。 その点に一切触れないインタビューなり取材は、さすがに相撲協会とNHKだといったところか。

 それにしても、150kgを超える巨体ならともかく、それ以下の出場者はみな見慣れた相撲体型ではない。 手が長いのでリーチはあるものの、足も長いため異様な腰高で重心が高い。
 ウクライナのエレマコフという選手はその風貌が若い頃のチャールズ・ブロンソンに似て、実に渋かった。 また、ハンガリーのコーチがやたらと熱く、拍手したくなるような脇役だった。

 かつて初代若乃花の双子山親方が理事長を退いてから、相撲のルーツを探る企画という名目でNHKのテレビカメラと共にモンゴルや韓国の相撲を取材していた。 立ち合いの激しい当たりは日本相撲独特のものらしい。
 それ故に、このヨーロッパ相撲選手権でも立ち合いと同時に互いが激突しようという構えではない。 第一、腰が高いので、下から斜め上に当たって突き上げる姿勢が取れていない。 それでも軽量級の取組はレスリングのような素早さと投げ技で、そのうちブレーンバスターかジャーマン・スープレックスでもやってしまうんじゃないのかと、奇異な可笑しさと共に軽業のような身体能力に驚かされる。

 ヨーロッパでの相撲はその裾野がまだ増えるだろうという話だが、妙なポイント制導入などというねじくれた方向に向かわない事を祈りたい。