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タヌキとヒゲおやじ

 10日ほど前だろうか、出くわしたタヌキを捕まえてやろうとしてお袋さんに笑われた。
 お袋さんと買い物の帰り、我が家近くの道でタヌキが飛び出してきて側溝の中へ入った。 蓋のないU字溝だが畑への乗り入れ箇所は埋設のヒューム管になっている。 φ300 とおぼしきその中に潜り込んだ。 あんにゃろうめ、ウチの畑へも入って好き放題荒しぁがった奴に違ぇねぇ、叩きゃホコリの出るヤローに決まってらぁ、ここで出会ったなぁ百年目、覚悟しぁがれぃ、とばかりにクルマを停めて忍び足でヒューム管に近付いた。

 どうしてくれようか、お袋さんは戦力にならないし出口は二つ。 片方に何か詰めて塞げればと思うものの、妙案はない。 そうこうしていると上流側から飛び出しやがった。 あ、てめぇ、コノヤロー! と小石を投げても当たりはしない。 こちらの間抜け面を嘲笑うかのようにふくよかな腹をボヨンボヨンと波打たせて藪に消えた。 実にけたいくそ悪い。
 一部始終を助手席から眺めていたお袋さんは大笑い。 そんなもの、出くわした一匹捕まえたところでなんにもなりはしない、相手はどれだけの数だと思っているのかとカラカラ笑う。 確かにおっしゃる通り。

 アルカイダのビンラディンが消されたというニュースを聞くに、あの日のタヌキとお袋さんの笑い顔がぶり返される。 ヒゲおやじ一人消したところでどうなるのだという思いがある。 麻原を取っ捕まえて上九一色の施設を排除してもオウムの連中はゴキブリのように残存する。 仮にダイサク爺ぃが天寿を全うしたとしてもなんたら学会はそれを更に神格化するだけだろう。

 米国民の熱狂ぶりは少し解る気がする。 彼等にしてみれば自国本土内が建国以来初めて急襲された 9.11 だったのだから衝撃も大きく、報復への欲求は当然だったろう。 今の平和ボケ日本にしても、東京をはじめとする主要都市のどこかで何千人という規模の死者を出すテロに遭えば、世論は一挙に軍備増強だ報復だ仇討ちだとなるのは火を見るより明らかではないか。
 もっとも、そういう種を蒔いた大国のエゴと傲慢姿勢は否定できない。 世界の覇権を握るため、瀕死の弓状列島に必要以上な核爆弾までを使用した。 我が国の国益に添う行為は全て正義なのであると、世界警察を気取ってはいけしゃあしゃあと 「核を使っていいのは我が国だけだ」 とでも言いたげなスタンスが国家スピリッツだとするならば、傲慢大国の屁理屈もここに極まれり。

 ただ、あの国には日本よりも幾分マシなジャーナリズムがそれでも存在し得るかに思う。 異色のドキュメンタリー映画を作る 「華氏 911」 のマイケル・ムーアなどは政界や大企業にとって煙たかろうし、9.11 同時多発テロは仕組まれた政府の陰謀だと主張して止まぬ人々もいるらしい。 いいに付け悪いに付け、一見突拍子もない主張まで世の中を賑わせる。 アポロ計画を遂行した国で 「Capricorn One」 のような猜疑に満ちた映画が作られる。 自分が肺ガンになったのはタバコ販売を容認している国が悪いのだから補償して慰謝料よこせと訴えた奴もいる。
 公民権運動家の黒人牧師も若き大統領さえも、都合悪い者はみな撃ち殺してしまう国だけに、まずはオカミを疑って掛かり、主張したいことは周囲の嘲笑を買ってまでもやってしまう土壌があるのかもしれない。

 我が国を振り返ればどうなのだ。 議員報酬と公務員人件費をとにかく切れと、ここまで庶民が叫んでいるにもかかわらず、その件に触れることタブーと言わぬばかりに貝の如く口を閉じ、話題にも挙げぬ日本の新聞・TVなどは所詮揉み手の御用メディアでしかない。 気骨のジャーナリズムは存在し得ず、その独裁体制を卑下してきた中国などと実は何も変わらぬ有様である事を、一体どれほどの国民が自覚しているだろうか。

 アルカイダの報復行動はあるだろう。 それなくして彼等の存続意義はない。 我が国にも及ぶのかどうか、用心に越したことはない。 タヌキ一匹捕まえたところでお山にまだどれだけいるのか知れたものでなく、畑の作物は我が手で守らねばならない。 元はと言えば国策のみみっちい補助金に踊らされてお山を “杉畑・檜畑” にしてしまった人間のせいではないか。 世界の縮図が田舎にも見て取れる。