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どいつらもこいつらも

 ニューヨーク・タイムズ電子版はコラムにて 「日本の人々には真に高貴な忍耐力と克己心がある」、「これからの日々、日本に注目すべきだ。間違いなく学ぶべきものがある」 と大層な称えようをしたそうだ。
 被災地での車上荒らしや燃料盗っ人、被災地以外でも店頭の義援金箱をかっぱらって逃げる輩など、取っ捕まえてジェラシックパークの山ン中へでも捨ててしまえと思えるような非国民はちらほら耳にするも、諸外国からこの国全体を見れば信じられないほど 「高貴な忍耐力」 を持つ民族なのだろう。

 石原都知事の 「天罰」 発言は大津波被災という最中でそれを言葉の主語に使ってしまった。 これは各方面からそれこそ大津波のような叱りを受けて当然だ。 ただ、レスキュー隊員の苦悩と御苦労に向かって涙ながらに頭を下げた知事の姿勢は、危険を承知でそこに赴かせた責任者の一人としてその心中、分かる気がする。
 現職知事に批判的な人々は 「ありゃあ選挙用のパフォーマンスだ」 と早くも口撃に忙しいようだが、危険地に向かいて使命感と高い士気を維持し続けた勇敢で頼もしい人々の姿に、国民の誰もが胸に熱いものを懐いたであろう事は疑い無いところではないか。 「この荒んだ日本で、人間の連帯はありがたい、日本人はまだまだ棄てたもんじゃないという事を示してくれた。これを踏まえて、これに縋って、この国を立て直さなければいかん」 との発言は大多数の国民の代弁でもあったように思う。


 各国の報道機関が見る我が国は、我々があまり意識しない部分を時として摘み上げてくれるものの、ああやはりそのように分析されているのだろうな、もっともな見方だ、というのもかなりある。 つまりは、先進諸国の一員としてどう見られているだろうかという想像は概ね当たっている。
 「素晴らしい日本の市民意識」 と賛辞をくれる傍ら、「やはり閉鎖的な特権階級意識の官僚とそれを使えず依存するしか能のない政府」 というのは我々が常日頃口にしている政治と国民の意識乖離にまったく同調している。 人間個人が窮地に面して当人の本質的性格を表すのと似て、今回のように国難の有事となれば国家運営システムそのものの特徴が際立って浮かび上がる。


 半官半民の電力屋は親方日の丸の商売だけに危機意識もなく、まるで無防備な実態が明らかになった。 こと工作員によるテロ攻撃でもあれば、電力、石油、水源といった箇所を狙い、押さえに来るのは小学生にでも解っている。 原発の震災イコール放射性物質漏洩と繋がるのは当たり前の話で、事の重大さがどうにも解っていない。 というよりも、左団扇で安閑とお茶飲んでいるのが仕事だと思っているフシがある。
 原発施設には日々多くの関係協力業者が働いているだろうし、勿論東電の現場職員もいる。 地震が来てとんでもない津波にも襲われ各所がイカれたとなれば、作業している人やオペレーターはどの程度の損傷なのか、何が機能しなくなったのか、即座に知り得ていた筈である。 被災状況が本社に届いたとしても、おそらく現場と本社には緊急度、緊迫度に相当の隔たりがあったのではないか。 原子炉緊急停止装置は働いたのだろう、ならばまずはよかった、との楽観視がどこかになかったか。

 日を追う毎に悪化する状況と、口を濁しながら情報資料を出し渋るのを見れば、当初に現地から上がってきた被災の有様とその情報への対処を今更開示できない困惑に見えた。 後は周知の通り、不祥事続きの大相撲理事会の謝罪会見と大差ない。 どこまで喋って良いものか、会見場本番でヒソヒソと楽屋協議を始める始末。 また、今対処しているのだから素人がとやかく言うなと言いたげな上から目線に思える説明では、国民が不安と疑いの目を向けるのも当然のな成り行きだった。 彼等は何か隠している、非常に危険だと、米国を筆頭に各国がそう読み取るのも無理はない。


 経産省の保安院はあくまでも他人事を貫き通す。 指導はするが責任は持たぬというよく解らない存在だ。 省庁とはそういう処で、日頃は民を縛りつつ餌を与えて天下り先の段取りに余念が無く、都合悪ければすらっ惚けて火の粉から逃げ回る。 「ワシゃ知らん」、「ウチに責任はない」 が、有事に於ける“仕事”である。 我が保身ためには何でもやり、またそれに長けている。
 そんな事を発表すればどうなると思っているのか、この私のクビが飛ぶのだぞ、考えてモノを言えと電力屋を脅す一方で、あの総理では何を言い出すか分かったものじゃない、こことここはお茶濁しておけ、いいな、あくまでも東電の不手際なのだからな、と立ち回る。 それ故、保安院の会見などは中継したところでさしたる耳寄りな情報など無い。 あれは一体何のためのどういう組織であるのかをいぶかしがる海外メディアも多いだろう。 典型的な日本の中央官庁体質がかなり透けて見える。

 このような危機的状況下に於いて、では保安院という処は一体どれだけの具体的対策方針を打ち出しているのだろうか。 怪しいものである。 責任回避が仕事ならば、こうすべきであるからこうせよとは言わないだろう。 文句の一字一句に必ず彼等の逃げ道を含めている筈である。 早い話が有事に際して何の役にも立たない。 知識もなければ経験もない、所詮は役所の事務方なのだ。 自衛隊が有するその道の専門部署や消防のハイパーレスキューの方が遙かに詳しいに違いない。
 被災地では緊急住民避難を呼び掛けて奔走し、幾多の駐在警察官や役場職員が津波の犠牲となった。 命を惜しむことなく住民の生命保守に最期まで職務を全うしてくれた彼等を思えば、都知事でなくとも込み上げるものに言葉が詰まる。 同じ公職に就く者にしても、大変な違いではないか。

 細かなことにケチつけよう。 まず原発の被災状況把握が実にお粗末だ。 放射線の危険がある、水素爆発で建屋が吹っ飛んでしまったというのなら、ラジコンヘリにカメラ付けて飛ばせばどうだったのだ。 河川敷で飛ばしているマニアでもそれぐらいは考えつく。 肝心の部分をまず知ることからせねば始まらないだろう。 ヘリで水を投下するのを見ていた生コン圧送屋がたまらずウチのポンプを使えと申し出た。 瓦礫にしてもそうだ。 建屋が爆発したのなら辺り一面まともな足場が無くなっているなど子供でも分かる。 建機メーカーなら無人ブルや遠隔操作ショベルぐらい、とうの昔から研究済みだろう。 すぐ持って来いと言えば一台や二台あるのではないのか。 ゼネコンはじめ多くの業界に知恵を借りているのか、問い合わせぐらいしてみたのか。 はやぶさミッションまでやってのける技術大国がロボット機械を真っ先に考えなくてどうするのだ。 結局は、内輪の実状を世に知られたくない隠蔽と保身根性、情報開示不足があらゆる支援、対処作業をより困難にしてしまったのだ。


 死に体であったハチャメチャ内閣がこの震災騒ぎで少しながら支持率を上げたのだとかいう話だ。 この国難にお前達を叱り飛ばしている暇はない、能無し政府でも引き摺り下ろしている場合ではないから、とにかく国を挙げて救助せよ、原発を抑えよと国民から尻を蹴飛ばされたのだろう。 批判政党そのままで耳障りの良い大風呂敷を広げて衆院の多数を得た政権与党。 権力争いの内輪もめに分裂し、国難政治の執り行える人材もいない。 震災に向けた官邸の対処は自分達の能力過信や傲り高ぶりからなる後手踏みばかりに見える。
 意気高々にラッパ吹いて怒鳴り散らせば組織が機能するというあさはかな素人考えでは、国家の難局を乗り切るのは極めて難しい。 首相が早朝、東電に乗り込んでどのような怒声を浴びせたのか、経産大臣が消防隊に何を言ったのか知らないが、それらも稚拙さ露呈のひとつだろう。 役人を扱えず外交でも諸外国から嘲笑され続けている政府の脆さが有事に際して一挙に吹き出る。

 国民目線の政治を行いますと能書きを垂れながら元々謙虚さを持ち合わせていない与党だ。 あれは選挙用の大風呂敷で御座いました、まことに申し訳御座いませんが改めますという政治に対する誠実さもない。 世論から叱責されている国費バラマキ政策をこの国難にかこつけて少しずつ改められる、これは党の看板にとって都合良いとでも考えているのではないのか。
 未曽有の災害に官邸周囲の人材不足。 このままでは国が潰れる。 蓮舫や辻本を引っ張り回すものの自分の身内ではその程度、たかがしれている。 今更小沢に頭も下げられず野党自民党に手伝ってくれと頼むのはいいが、入閣してくれというのでは蹴られるのは当たり前だろう。 それもこれも自己能力過信と批判政党根性で通してきたツケなのだ。

 頼みの綱としたのが官僚とのパイプも太いと言われる仙谷・党代表代行で、官房副長官に据え、被災者支援に特化させるという、実質上、官房長官復帰である。 官僚との風通しはけっこうながら、では被災地最前線で奮闘中の自衛隊とはどうなのか。 「暴力装置である自衛隊」 と暴言吐いたのは他ならぬこの男ではなかったか。 つまらぬ揚げ足取りをするつもりはないが、災害でそれこそ頼みの綱である自衛隊と、その組織を暴力装置と見なす内閣官房が程良く意志疎通出来るとはあまり考えられない。 内閣官房から暴力装置と見られながら隊員は日夜瓦礫を除去し、被災者遺体を黙々と運ぶのである。 有事とはいえ、なんと悲しいことだろうか。
 原発事故援助にしても米の手助けを断ったのだとかどうだとか、真相は分からぬにせよ、労組に支えられ反米意識を内包しながら公務員制度改革をやり遂げて日米安保条約保持という与党の自己矛盾、欺瞞とも言える体質がボクシングのボディブローのように利いてきている。 現政府の対応を見ていればそう思わざるを得ない点、多々ある。


 これら政・官・財のありようは大震災と原発事故に直面してその腐敗と非機能性をさらけ出した。 無論、これは現政権だけに非があるのではない。 今や傍観者と成り下がった自民党政権時代からの膿溜まりである。
 世界中で日本の災害救助支援が広がる中にあって、国会議員共は何を思い何をしているのであろうか。 政権与党でなければ何ら力を発揮できないとでも言うのだろうか。 超党派で何らかの動きがあるだろうに、それが一向に聞こえてこないのが不思議である。 それがこの国の国政システムなのだとすれば末期的状況だと悲観する。