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弓状列島をめぐり

 原発事故は深刻で、これ以上の事態悪化は救助活動にも物資供給にも甚だしい支障を来す。 東電職員と協力業者、自衛隊に警察、消防庁。初動の遅れによってこれら各組織の非効率をまさか現地で生んでやしまいなとの懸念がある。 混在する組織の統一指揮系統は確立されているのか。 上手く統合させ得る人材、人物が現地に就いているのか。 危険を顧みず、国家危機を救うべく使命感で日夜奮闘する最前線の人々の魂、その働きを無駄にしてはならない。 東京消防庁のハイパーレスキューにしても、もっと早期に要請出来たろうにと思えるのだ。


 震災騒乱の中、いよいよ表立ってきたなという気がする。 日本をめぐる米・中・露ら大国の画策だ。 原発事故対処、震災被害者救済をはじめ、国が同時に総力を注がねばならない対策は多い。 放射能によるイメージダウン、信用失墜と株下落、足らぬ国費に、一層厳しくなる生産現場。 更にはこの機に付け入ってくる諸外国への対応。 これらを考えれば、被災者でなくとも不安なことは確かだ。

 危機に際し、早々に手を差し伸べて救助支援等の派遣団を送ってくれた各国は涙の出るほどありがたい。 だが国家間のやること、とりわけ大国の目論見、肚の内は、リビアに向ける利権争いと大して変わりはしない。 ひとつの国家が傾けば、それを絶好機としない周辺諸国など無い。 ただでさえ極東の、実に美味しい位置にある弓状列島。 手を変え品を変え、これからは一層激しい揺さぶりと付け込みを我々は見ることになるだろう。

 気の毒な震災、お粗末な原子力管理、手薄となった国家防衛、交渉力皆無の政府外交、救済と復興に傾倒せざるを得ない国民意識。 これらは諸国にとって都合よいファクターばかりだ。
 先頃、早々とロシア偵察機が日本国土上空に飛来し、思う存分に眺めて帰った。 未曾有の災害に際して防衛システムがどれだけ機能しているのか突いてみた。
 メドベージェフは 「必要があれば、シベリアや極東の人口過疎地で日本人の労働力を活用することも考えるべきだ」 と、あたかも震災難民への救済であるかの如き発言をしたそうだが、シベリアと聞いて日本民族が懐くのは忌まわしい記憶と憎悪でしかない。 ロシア大統領がそれを知らぬ筈もなく、あえてそのような発言をするからには、あなた方はもう殆ど死に体でしょうが、という意図を感じる。 それは即ち、北方領土にせよ何にせよ我に従いなさいよ、という威嚇だろう。
 あの仙谷由人が被災者支援に特化する官房副長官としてどさくさ紛れの再登用だ。 ロシアの意向はありがたい、みなさんシベリアで働きませんか、などと言い出しかねないのを真面目に危惧する。 メドべージェフもこの男の再登場を見て発言したのではないのかとさえ思える。

 中国は全日空貨物機の積み荷から規定値以上の放射線量があったとして大連空港での荷卸しを拒否、持ち帰れと突き放した。 そんな筈はない、どれほどの値が検出されたのだと問い合わせても予想通り返答などよこしはしない。 この放射線量検出という文句は向こうにとって実に有益だ。 日本で作る物は受け入れ難いですよ、だから我が国に来て、合弁で技術も全て開示して作って下さいねという訳だ。 この手法は中国に限らずどこもかしこもやり始める。 経済締め付け、包囲網がより強くなる。
 自国で風評を煽ってしまえばいいのだ。 あの国はヤバいぞと書き立てればいい。 既にルフトハンザ、アリタリアなどの便は成田から関空や中部国際に着陸空港を変更だ。 ただ、これら諸外国の対処全てを大袈裟な意図的パフォーマンスと見てしまうのは早計だ。 これが逆の立場なら、そこにいる日本人を即刻引き上げさせろという世論が我が国内で沸騰するだろうことは火を見るよりも明らかではないか。

 日本政府と経産省、東電の災害対処及び米国への対応のまずさは、今となっては震災前からの話で、この有事にそれが極めつけとなった。 何を考えているのか、統治能力もまったくなさそうな政権が未曾有の震災に直面して蜂の巣突いた如き騒ぎになっている。 おいお前、大丈夫なのか、というメッセージを再三に亘って発するも、鈍感なのか意固地なのか反応がイマイチだという印象を米側は持っていたように思える。
 事が原発事故対処の不手際に及んで、米も一般的な救助活動支援だけで放っておけない。 奴等に対処出来る能力はないだろうし、これは我が軍の先を見据えた訓練にもなると踏んだ。 うかうかしていれば在留同胞の身も危なく、ハワイまで飛散させられたのではたまらない。
 おい、ヤバそうだな、ちょっと見せてみろと言っても、いえいえ自分らで治められますからと言う。 しかし官房長官、保安院、東電の三者三様な会見発表では実に危なっかしい。 発表内容がどうにもアヤしく疑わしいのだ。 ドカンドカンと続けざまに爆発している割に三者から緊迫感が伝わらず、東電会見に至ってはボソボソと隠し事の内緒話を見せつける始末。

 これでは米国でなくとも在留同胞を引き上げさせろという動きになる。 米軍の持つ情報能力をフル稼働させてフクシマの実態情報を探るのも当然だ。 U2を飛ばし、スパイ衛星にも注視させる。 ただでさえ中国、ロシアの動きを牽制せねばならぬ。 この列島は米国がかつて占領下に置き、今も安保条約という形で占有権を持っているのだと見せつける必要がある。
 沖縄はじめ国内の米軍基地に対する思いやり予算はこれで米の圧力が強まり、日本は退くはめになる。 原発のお守りも出来ない小僧国家が何を言っているのだと頭を抑えられる。 それみたことか、米軍がこの地にいなければお前達は非常時の物資供給すらままならないではないかと畳み掛けてくる。
 大国同士のせめぎ合いの前に大和民族のきれい事など通用しない。 大国同士の会話の中では、どこの傘下なのだという価値で日本は語られるのだ。 腹立たしくとも残念ながらそれが実状だろう。
 折しも国連安保理はリビア政府軍に対する事実上の攻撃を可能とした。 利権を目論む各国は競うように空爆の段取りだ。 待ってくれ、我々政府軍は反体制派への攻撃をすぐやめるから、などと言ったところで、もう遅すぎる。 先に唾つけた者の勝ちなのだ。 各国は容赦ないだろう。 なんといっても安保理決議のお墨付きは錦の御旗だ。

 米大統領が異例の日本大使館訪問で見舞いの記帳。 すかさず中国国家主席も同様の行為を世界に示す。 少し前、自分との会談でメモ書きばかりに目を這わせていたお粗末な男を首相とする国である。 その大使館にわざわざ出向いてまで震災を見舞ったのは米への対抗意識からか、それとも大国間である種のナシは既につけられていると見るべきか。

 はからずも延命となった首相の意気込みはけっこうだが、己を過信したのではイライラと吠え立てるばかりで空回り、その結果、周りが見えず必要な助言者も揃えられず、後手に次ぐ後手で遅れをとった。 官邸も疲れていようが、こういう時こそ日本の顔である首相は世界に向けたそれなりの存在感が必要とされる。 それはその立場を与えられたからといって身に付くものでもない。 だが今はこの政権で危機を乗り切るしかない。 素人に言われるまでもなく疎かにしてはいまいが、危機に面して諸外国の目とその動向を見逃すような失態だけは勘弁して欲しい。