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INDEXⅡ 第8話

 「これでも生物学的には一応オンナなのだろうな」 と思ってしまう不衛生な生活が日常である女性には幸いにも巡り逢った経験がないものの、聞くところによれば、世の中には十日も二週間も風呂に入らない女性なんぞはゴロゴロいるそうで、こればかりは怖いもの見たさに覗いてみたい好奇心もさすがに湧きはしない。ではそのような女性は表に出歩かないのか。コンビニやスーパーぐらいへは行くだろう。人混みの中、腐臭を放つであろうその者はまさしく腐女、腐女史だと表現できるのではないか。
 
 ただ、繁忙の業務故から職場に泊まり込み、長らく我が家にも帰れないという職業はザラにあり、その職務遂行精神の副産物として汚らしい生活にならざるを得ない場合はこれいた仕方なく、蔑視したのではいささか気の毒である。時間的余裕を持ちながら自堕落さ故に不潔な生活に陥っているオンナを腐女と蔑むことにしよう。

 さる高名な女性ピアニストは連日の公演が数日続く場合、その間入浴を慎むのだそうである。体調が微妙に変わってしまうのを避けるためらしい。アニメーター諸氏もスタジオに缶詰めなどというのは茶飯事だろうし、24時間通じて世界が繋がっている現代社会では毎日帰宅は午前様という業種も多かろう。私の好きな 「脱ぎ女」・木山春生も研究に没頭すればメシもろくに喰いそうにないではないか。

ファイル 59-1.jpg 六畳一間と思われる鉄骨アパートに住み、とても独身女性の部屋には見えぬ散らかし放題の部屋。足の踏み場もないほどそこに散乱するビールの空き缶と、目を背けたくなる吸い殻の山。 指定のゴミ袋を出してこい、掃除機はどこだ、箒もないのか、雑巾は、と立て続けに喚かねばならない有様は、前作に見る小萌先生の部屋である。ウサギさんパジャマもこれではすぐ汚れてしまうだろうと思われ、あれから少しは小綺麗な部屋になったのかどうなのかちょっと心配する。

 土御門舞夏に言わせれば 「名物ミニ教師」 だそうで、なるほど 「名物」 には違いなかろうミニサイズは踏み台を用いたところで講義黒板の上端までは使い切れそうでなく、劇場や遊園地は格安料金で入り込めるとしても、オヤジ趣向なその酒豪の胃袋を満足させるべく盛り場を彷徨けば補導員に連行される事態もしばしばではないのか。
 理路整然たる教鞭を振るいつつ、夜な夜なアパートでビールを呷っては尻から煙を吐くぐらいタバコを吹かし、翌日の講義準備と我が研究に余念がないのだろう教師生活は、身の回りなど二の次ということだ。 しかし、私は想像するのである。冷暖房があるのか無いのか知らないが、モウモウたるヤニの煙棚引く狭き部屋で安布団にくるまっては理論文献を繰り返し読み耽り、なるほど、いやそこは違うなどと適度なビール刺激に冴えた頭脳の活性に勤しむ愛すべき女教師の姿を。

 小萌先生を好きである。もしもこんな教師がいたならば、自分の人生も大きく変わっていたことだろう。当麻君達は大変幸せ者である。センセを泣かすな、というのが生徒達の共通認識で、彼女はその純粋な性格と愛らしさで信望を得ている。殊に男子生徒達にとって小萌先生の涙というものは一大事で、外国からミサイルをぶち込まれたに等しい出来事だ。有名な京都伏見の泣き虫先生の熱血とはひと味もふた味も異なるが、生徒を思う彼女の涙に、炎と化さぬ生徒は人間ではないのである。棒倒し競技なんぞただの戯れ。その影響力たるや御坂美琴の能力もタジタジではなかろうか。

         「タバコを吸う女の人は嫌いなんですぅ?」

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