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田舎の描写

 ふんだんな山と緑。水田の間を縫う道路は舗装されているもののヒビだらけである。閑散とした駅舎周辺。瓦屋根の、おそらくこれは無人駅。地元地区出身の代議士が都合した予算なのか駅正面のロータリーだけはモダンに造形されている。しかし誰がここを利用するのかと思える人の気配の無さは、水田農耕エリアのど真ん中にある駅なのだろうと想像させる。コンビニも大衆食堂の一軒もありはしない。本当に最近の飲料商品が詰め込まれているのかと疑いたくなる外観の自販機だけがぽつねんと、まるで無人駅の監視でもしているかのように駅正面で寂しく佇む。

アニメ 「ヨスガノソラ」。 まずはこの田舎風景にたまらぬ親しみを覚える。ガードレールの向こうから首手拭いした近所のオジサンが草刈り機担いで 「よぅ!」 と顔を覗かせそうである。
$FILE1_l 日々一体何台の車が往来するのか、道行く人など見当たらぬ勿体無い程広い道路。我が国の田舎の現状そのままだ。田舎の人口流出に反して道路予算が注ぎ込まれた皮肉な歴史が見える。交通量が極端に少ないのであれば、農家は我が物顔で農作業用通路に使える。ただし、いくら田舎道とは言っても路面がこのようなひび割れを見せることはない。これだけは誇張である。ロケハンで実際にこういう田舎道があったのならそれは間違いなく土建屋の施工不良だと断じてよい。

$FILE2_r この辺りに1店舗だけというスーパーの規模も店構えもまことに写実的である。奥木染という町の大半の胃袋はここに依存していそうだ。瑛が大量の生活用品、食品を買って帰る。これも見慣れた情景である。何軒分ものまとめ買いで、どこそこの婆さんやら爺さんやらの注文をメモしてきているのだろう。最後に到着する予定の、自分の家でもある神社近くまで瑛の自転車が軽くなることはない。公共交通機関など無いに等しく、頼りになるのはクルマと自転車。急峻な坂道だらけでないのが救いと言えようか。

 主人公・悠と穹が住む家は彼等の爺さんがかつて田舎の開業医として使っていた家屋だ。奥木染町に現在どれだけの医療機関があるのか知らないが、当時は村の診療所的な役割も担っていたことだろう。人々から慕われ頼られていた爺さんのようだから、その医者の孫、夏休みに時折やってくる双子の孫ということで、周囲の子供達の目には少し違った存在に映っていただろう。
$FILE3_l 働ける大人になるまで両親や祖父の遺産で暮らすというものの、子供二人だけで生活するにはけっこうな大きさの邸宅だ。我が儘なお嬢様気質である妹の機嫌を取りながら家事全般をこなそうとする悠はかなり無理を余儀なくされる。妹は何もしてくれないのだから、日々各部屋の掃除だけでも大変な作業だろう。隣近所の手助け無くして世間並み生活は出来そうにない。

 それを思えば、瑛はこの神社をどうやって一人で維持管理出来ているのか。大層立派な社殿といい、社務所もあれば住居もあり、境内をはじめとする広大な敷地一帯と、最初に目を奪われる驚異の石段やいくつもの鳥居の荘厳さは、どうみてもそこいらの三文神社ではない。地元有力者である大金持ちの実父が裏で金銭的援助を施しているにせよ、日々の社務実務は全て瑛一人でこなしているのである。学校へ通いながらだ。これぞ神のお力か。

 心臓破りの石段をようやく登り切って広場に辿り着いたところで、もう一段上に広場があり、参拝するには更にもう一段上へ上らなければならない。かつてはこれら広場も垣の内側だったのだろう。二重にも三重にも垣が施されていたものと思われる。
$FILE4_r 明治の太政官布告によって昭和の敗戦の年まで神社が社格分類されてしまった歴史を我々は知っているが、例えばそれに当てはめたとしてもかなり高位の格付けにされそうな規模と外観を持つ神社である。ここの神格を人々に植え付け、まことしやかな伝説と幾つかのエピソードで擽れば繁盛しそうではないか。関東の某なんたら神社のようにアニメオタクの聖地として売った例もそれはアリだが、ここはその聳える石段からして威厳に満ちていよう。高校の体育系クラブによる夏合宿石段登りに使われそうなだけでは宝の持ち腐れである。

$FILE5_l 神社の近くなのだろう、やひろの営む雑貨屋・伊福部商店がある。これまた田舎でよく見掛ける店で、「昔は商店だったのだろう」 という廃れぶりである。何がリアルかというと、店内に明かりも付けず暗いのである。悠がアイスを買ったからにはその冷凍庫は機能を果たしているのだろうが、隣に鎮座する自販機はとうの昔に電源を引っこ抜かれていそうに見える。大概こういう店は商売する気もなく惰性で看板を挙げ続けているだけで、愛想もクソもない店主が面倒臭そうに暗がりから顔を出す。スーパー大木奈が出来てから一層客足は遠のき、近所の連中だけが忘れた頃に付き合いで買っている程度だろう。
 悠の前に現れた店主・やひろの怠惰な仕草やふてくされたかの如き商売気の無さは、どこの田舎へ行っても出くわしそうな店を忠実に表しており、ここでの商売も大変ですわなと思うよりも前にその現実的臨場感に失笑を禁じ得ない。

 18禁恋愛アドベンチャーゲーム、人気ジャンルだけに背景にもさすが深さとこだわりがあるではないか。

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