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My Girl

 録画しておいた「My Girl」 という映画を観た。 美しい田舎町を舞台に子役が名演。 「近しい者の死」 に幼くして直面する悲しくも胸暖まる話だ。 かつて 「小さな恋のメロディ」 という映画があった。 同じ年頃の少年少女の話だが、あれは少女マンガが好んで取り上げそうな、キュートでコミカルな作品だった。 ビージーズの曲を全編に用い、さながらビートルズ映画の子供版という趣だった。

ファイル 131-1.jpg 少女を産んだ直後に母親は亡くなった。 自分が産まれたがために母は死んだ、母を殺したのは自分だと、物心ついた頃から少女は実に重いものを自らに課している。
 父の仕事が葬儀屋である故に、否が応でもあの世に旅立つ人々の姿を日々見ることになる。 毎日の遊び相手である少年と互いの血を混ぜ合わせる行為をもって “絆” とするのにも、生きている今の自分から漠然と人間の “死” を考えているのが窺える。

 ある日、葬儀屋の父の元へ美容師募集広告によって一人の女性が訪ねてくる。 父は葬送する遺体の美容師を要していたのだった。 日本で言う 「おくりびと」、納棺師である。
 戸惑いながらも死化粧に取り掛かるその美容師は、何のための化粧なのか解っていない。 こうした方が魅力的になると、街中の美容室そのままに化粧を施してしまうくだりがある。 雇い主である少女の父は 「そうではない」 と美容師を諭すのだ。

 折しもNHKだったか、震災の被災地にボランティアで出向く納棺師の女性をニュース番組で取り上げていた。生前のその人の写真を脳裏に焼き付け、死後硬直して変色した御遺体を出来得る限り生前のその人の容貌に甦らせる。技能もさることながら、逝く人に対する敬虔な姿勢がなければ出来ない仕事だろう。


ファイル 131-2.jpg 小さな少女に視点を当てた物語では往々にして妖しい小悪魔的要素が盛り込まれる。 しかしこの作品にそれはない。 母の乳房の温もりを知らぬ葬儀屋の一人娘が、人間の死に直面しながらひとつの扉を開ける。 父の再婚話や自分の身体に降って湧いた初潮の到来、そして友の死と、矢継ぎ早に自分を襲う嵐のような出来事。 静かで平穏であった世界が一変する中、現実的で生々しくもある成長過程が描かれる。

 総じて十歳前後の子供時代では少女の方が成長が早く、体つきもやや大きい。 取っ組み合いしても少年の方が劣勢であったりする。 主役の少女も然りながら、相手役の子役少年がいい。 奔放な少女のペースに少年は振り回され、後ろを付いて回る弟のように見える。 それがリアルで微笑ましく、遠い昔の郷愁を呼ぶ。
 初潮に驚き、性についての教えも受けるが、身体の成長と知識を得た事によって反射的に相手の少年を退け突っぱねる辺りは、これを観る者が女性ならばおそらく頷ける行動ではなかろうか。

ファイル 131-3.jpg 子供ならではの律儀さを持つ少年は林に入り、少女が落として失くした指輪を彼女のために捜す。 そして帰らぬ友となる。 棺にすがる少女の姿に貰い泣きせずにはいられない。
 母が逝った時の状況を知らず、葬儀という儀式は父の仕事であって、厳かながら淡々とした業務の流れに映っていた。 友の急死によって少女は失うことの悲しみを、取り残される者の苦しさを初めて知る。 思春期に踏み入った少女を通して、人が生き、人が逝くとはどういう事であるのかを切々と説くような、重みある一作である。

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