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殺された耕作地

 農水省のとりあえずな調査では 24,000 ha の田畑が津波に覆われたという。 これは津波による浸水被害だけの面積で、地震によるクラック、段差、崩壊、等の被害は含んでいない。 それらと共に農道寸断やら用排水設備の被害などを合わせれば、使えなくなった作地面積はどれほどに上るのか。 更には追い打ちの放射能による土壌汚染の心配もある。

 船や家屋を押し潰しながらどす黒い津波が数分の間に田畑を覆う。 そこにある耕作地の全てが死んだ。 豊穣を生んだ肥沃な田畑表面は見渡す限りヘドロと廃材のゴミである。
 重い足取りでゴミの撤去から始めねばならない。 木材、金属、プラスチック、ガラス、ゴム、あらゆるゴミがごちゃ混ぜに押し流されてきている。 大雑把に取り払ったとしても小さな釘やら金属破片、ガラス破片などはヘドロに混じっている。 ヘドロを丁寧に鋤き取っても、そこに現れるのは元の土ではない。

 海水が夥しい塩分を運んできている。 更には船や湊の重油、廃油やクルマのオイル、ガソリンもかなり含まれているだろう。 放射能を被らなくても土の物理性、化学性はおそらく破壊し尽くされている。
 水を使う水田は当然ながら水平面に保たれていたのだし、畑地にしても目立つほどの傾斜を設けていたのではない。 そこに溜まったヘドロと瓦礫ゴミは何日経っても流れ去りはしない。 第一、津波の荷重が馬鹿にならない。 2mの厚みで津波が田畑を襲えば、静止状態で単純に考えても平米当たり2トン以上の荷重が全域を覆うのだ。 これだけ上から押さえられれば、田畑は締め固まってしまい、表面の標高も低く沈んでしまっていると思われる。 ますます津波水の退いていく出口が少なくなる。 まるで悪徳な産廃処理業者による不法投棄場所の様相ではないだろうか。

 それだけではなかろう。 海岸近くの耕作地は、少し掘ればそこに必ず砂の地層があるだろう。 最初の揺れで地割れと共にそれが田畑表面に上がってきている。 いわゆる液状化という現象だ。 土の物理性死滅というだけでなく、土そのものがまったく別物に入れ替わっている可能性も大きい。

 場所によっては軽傷にて、来年には耕作できる土地もあるだろうが、まるで見通し立たぬ田畑も多かろう。 この上に放射性物質による致命的な土壌汚染だけはなんとしても防がねばならない。 東方の空を仰ぎ、西の地の農家は漠然とそのように考える。

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