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「大丈夫です」

 誰もが恐れていた最悪の状況。 人体に影響の出るミリシーベルト単位の放射性物質が測定された。 逃げるしかない。 なるたけ遠くへ逃げるしかない。 地震と津波で壊滅的打撃を受け、ようやく津波注意報が全面解除されたというのに、未だ救助を待つ人々を救いに行こうとする活動にまで影響が出そうだ。

 事を小さめに裏処理したいと目論んだ電力屋と省庁、事態の把握にまったく遅れをとった政府は、国民や全世界に詫びて済まされる責任の重さではない。 初動対処のお粗末さの背景で、国のエネルギー政策と原発反対運動沸騰への憂慮が交錯していただろう。 仮に、震災対策本部である政府と当該原発現場の電力屋との隠し事無い速やかな情報伝達がなされており、恥も外聞もない早急な手立てに専念出来ていれば違った結果になっていた可能性も大きいだけに悔やみきれず、被害を最小限度に抑え込まねばならぬ事故対策の不手際に怒りは治まらない。

 電力屋の当該現場では軽微で済まない事態を充分認識していただろう。 それが官邸に上がる報告では 「大丈夫です」 「水素発生してますが大丈夫です」 となり、その他のイカれてしまった動力設備や不可欠な資機材等については何ら問題なしと伏せたままではなかったのか。 迫る危機と苦闘する現場を尻目に、本社は 「事を荒立てるな、なんとかしろ」 の一点張りで抑え込む構図。 よくある話だが、原子力という超一級の危険物を扱う組織でこれは致命的だ。

 怒号飛び交う中、放射線を浴びながら対処に懸命の現場からすれば、シャツの襟さえ汚すことがないであろう本社お偉方とその結託相手でもある経産省保安院は何を考えているのか、お前達はこの事態をどうするつもりだと思ったに違いない。
 本社の中にも 「このままソラ使い続けるのは無理ですよ」 という意見もそれは出たことだろう。 しかし保安院がそれを許しはしない。 自分達の立場だけを守り通そうと努めるのが省庁だからだ。 いよいよヤバくなれば一転手のひら返して全責任を電力屋におっ被せてしまえばよい。

 官邸は 「本当に大丈夫なのか」 と当然疑ってみる。 政府の失敗はそこで初期に独自ブレーンを構築しなかった点だろう。 全国掻き集めればその道の専門家なり識者、経験者をそれなりに集められる筈だ。 国の最高権力者が緊急招集の号令かければよいだけの話ではないか。 そうすれば毎日繰り返される 「大丈夫です」 にも目を光らせること出来ただろう。 悲しいかな、疑念と不安を抱きつつも最後は 「その道のプロの連中がやっているのだから」 という自身への言い聞かせに終始し、その結末がこれなのだ。 やはり信用できない、と腰を上げた時には事態は極めて深刻。 政府主導の統合連絡本部を設置するも、それは地震発生から5日目という取り返しのつかぬ遅れようで、今更何をやっているのかという国民の怒りは当然だ。

 責任所在はおそらくなすり付け合いの末、うやむやに、想定外の天災であると片付けられるのだろう。 それは誤りでもないが真相でもなかろう。 なりゆきを見ている事しか出来なかった国民が最もよく分かっている。 今となっては国民はその場を追われ、逃げるしかない。
 二度も原爆を落とされ、第五福竜丸は水爆を浴びせられ、今度は原発の恐怖から逃げ惑わねばならんのだ。 退去した人々の中には命からがらやっとこさ避難してきたばかりの人もいただろう。 それがまた放射線の恐怖から更にもう一度避難しなければならんのだ。 寝たきりのお年寄りや看護の人達、最後の一人まで圏外退去させねばならぬ使命感の警察と陸自。 これら最後の方の人々はいくらかの放射線を浴びながらの避難である。 なんてことだと胸が痛む。

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